交換しませんか? 「悲しいXマス」を小さな「メリー・クリスマス」に
小さな愛の「いい話」〈9〉

きょうは、2013年のクリスマス・イヴ。
広がり続ける格差を反映してか、
華やかな電飾の街角にも、
恵まれた顔と恵まれない顔が、
交差しています。
もし、不幸に沈む顔と出会ったら、
ちょっとだけ「小さな「メリー・クリスマス」を交換。
みなさまのクリスマスに、ちょっとだけいい話を
お届けします。
どうぞ、みなさま、
よいクリスマスを!
広がり続ける格差を反映してか、
華やかな電飾の街角にも、
恵まれた顔と恵まれない顔が、
交差しています。
もし、不幸に沈む顔と出会ったら、
ちょっとだけ「小さな「メリー・クリスマス」を交換。
みなさまのクリスマスに、ちょっとだけいい話を
お届けします。

どうぞ、みなさま、
よいクリスマスを!
リボンのついた小さな箱を胸に抱えて、その人は、寒風吹きすさぶ街角に立っていた。
チラと腕にはめた時計に目を落としては、顔を上げて、通りの反対側に目をこらし、その目をゆっくり右に這わせ、左に這わせ、フッと息を吐いて、胸元の小箱に目を落とす。
しばらく小箱を凝視していたかと思うと、再び、時計をチラと見て、またその目は通りの反対側に向けられる。
彼女は、その動作をもう20分くらい繰り返していた。
12月24日。午後6時20分。
恋人たちの待ち合わせ場所として知られる、銀座のそのビルは、ブルーと白のクリスマスの電飾に彩られていた。その点滅が、待つ人たちの時を刻んでいる。
青と白の点滅は、最初は人の心を躍らせ、時が経つとともに焦らせ、最後には、冷たくあざ笑う。
20分という時間は、その人の心を焦らせ始めているように見えた。
反対側からスクランブルを渡ってくる人の波が途切れるたびに、その目に浮かぶ不安の色が濃くなっていった。
時折、紺色のワンボックスカーが、「○○人は出て行け!」と、大音量で憎悪の言葉を浴びせながら通り過ぎていく。ジュラルミンのコンテナいっぱいにPOPな絵を描き立てたトレーラーが、プロモーションの音楽を虚しくがなり立てながら、無駄な明るさを振りまいて走り去って行く。
その後を、一段と冷たい風が追っていき、そのたびに、その小さな人待ち人は、ブルッと体を震わせた。
私の手にも、ラッピングを施した小さな箱があった。
その箱を手提げ式の紙袋に入れて、私も待ち人がスクランブルの向こうから現れるのを待っていた。
次の信号で、私の待ち人は、通りの向こうに姿を現し、ペコリと頭を下げてスクランブルを渡って来た。
小走りに――というのでもない。
「15分ほど遅れます」というメールを受け取っていたが、その15分から、すでに7~8分が過ぎようとしていた。
待ち人は、吹きつける北風から身を避けるように、コートの襟を立て、時折、足を止めて風をやり過ごし、私のところへやって来ると、「風、強くて……」と天候に不平をもらした。
私の待ち人は、来た。22~23分遅れで。
私と私の待ち人は、予約しておいたレストランで食事をするために、大通りを2本裏の通りへと向かった。
もうひとりの「人待ち人」は、まだ小箱を抱えたまま、寒風に身を震わせながら、通りに目を凝らしていた。
チラと腕にはめた時計に目を落としては、顔を上げて、通りの反対側に目をこらし、その目をゆっくり右に這わせ、左に這わせ、フッと息を吐いて、胸元の小箱に目を落とす。
しばらく小箱を凝視していたかと思うと、再び、時計をチラと見て、またその目は通りの反対側に向けられる。
彼女は、その動作をもう20分くらい繰り返していた。
12月24日。午後6時20分。
恋人たちの待ち合わせ場所として知られる、銀座のそのビルは、ブルーと白のクリスマスの電飾に彩られていた。その点滅が、待つ人たちの時を刻んでいる。
青と白の点滅は、最初は人の心を躍らせ、時が経つとともに焦らせ、最後には、冷たくあざ笑う。
20分という時間は、その人の心を焦らせ始めているように見えた。
反対側からスクランブルを渡ってくる人の波が途切れるたびに、その目に浮かぶ不安の色が濃くなっていった。
時折、紺色のワンボックスカーが、「○○人は出て行け!」と、大音量で憎悪の言葉を浴びせながら通り過ぎていく。ジュラルミンのコンテナいっぱいにPOPな絵を描き立てたトレーラーが、プロモーションの音楽を虚しくがなり立てながら、無駄な明るさを振りまいて走り去って行く。
その後を、一段と冷たい風が追っていき、そのたびに、その小さな人待ち人は、ブルッと体を震わせた。

私の手にも、ラッピングを施した小さな箱があった。
その箱を手提げ式の紙袋に入れて、私も待ち人がスクランブルの向こうから現れるのを待っていた。
次の信号で、私の待ち人は、通りの向こうに姿を現し、ペコリと頭を下げてスクランブルを渡って来た。
小走りに――というのでもない。
「15分ほど遅れます」というメールを受け取っていたが、その15分から、すでに7~8分が過ぎようとしていた。
待ち人は、吹きつける北風から身を避けるように、コートの襟を立て、時折、足を止めて風をやり過ごし、私のところへやって来ると、「風、強くて……」と天候に不平をもらした。
私の待ち人は、来た。22~23分遅れで。
私と私の待ち人は、予約しておいたレストランで食事をするために、大通りを2本裏の通りへと向かった。
もうひとりの「人待ち人」は、まだ小箱を抱えたまま、寒風に身を震わせながら、通りに目を凝らしていた。

私の小箱は、結局、その人の手には渡らなかった。
私が胸の内に決めた意思とともにその人に渡そうとした小箱は、その意思もろとも受け取ることを拒まれた。
「ごめんなさい。わたし、あなたのその気持ちには応えられないから」というのが、理由だった。
その瞬間、私の手の内の小箱は、取り逃がした魚のように、胸の中に広がる海の底に沈んでいった。
やれやれ、さんざんなクリスマスだ――。
その小箱を手提げ袋に戻して、2時間後にレストランを出ると、「このあと、お友だちと会うので」という彼女と店の前で別れて、元来た道を戻った。
いっそう強く、冷たくなった北風が、歩道の紙屑や落ち葉を巻き上げながら、吹き抜けていく。一瞬、体が前に進まなくなるほどの強風だった。
天気予報は、夜半過ぎから雪になるかもしれない――と予報していた。
私は、両手をコートのポケットに突っ込み、前かがみになって風に耐えながら、大通りをメトロの駅に向かった。
待ち合わせたビルの前までくると、信号が赤に変わった。
ビルの青と白のイルミネーションは、まだ点滅を繰り返していた。
こいつら、たぶん、この夜が明けるまで、光り続けるつもりだろう。据え付けられたスピーカーからは、『Have Yourself a Merry Little Christmas』が流されていた。
ふと目をやって、「あれ…?」と思った。
スピーカーが据えられたビルの前の屋外ディスプレイ。その前に、ブルブルと体を震わせながら立っている、ひとりの女性。6時前からその場所でだれかを待っていたあの人が、まだ、そこに立っていた。
⇒あなたのクリスマスにぜひ。Toni Braxtonの
『Have Yourself a Merry Little Christmas』
――You Tubeより
『Have Yourself a Merry Little Christmas』
――You Tubeより

信号を渡りかけた私は、ふと、足を止めた。
止めた足をその人のほうに向けて、一歩、踏み出した。
その人の前まで行って、「あの……」と声をかけると、冷たい風に涙目になった顔が、私を見た。その目が「あれ……?」という表情を見せた。
「6時前からここにいらっしゃいましたよね」
コクリ……と首が動いた。
同じ場所で人を待っていた私を、その人は覚えていたようだった。
「たいへんぶしつけなお願いなんですが……」と言うと、その人の目に、ちょっとだけ警戒の色が浮かんだ。
「あの……これをもらっていただけませんでしょうか?」
そう言って、手にした手提げ袋を彼女の前に差し出す。
その人は、わけがわからない――という顔をした。
「実は、さっき、私がここで待ち合わせをしていた女性なんですが……」
「あ……覚えてる。きれいな人でしたよね……」
初めて声を出した。
「渡そうと思って心を込めて選んだプレゼントだったんですが、受け取ってもらえなくて……」
「エッ!? かわいそう……」
「いや、私は慣れてるから大丈夫なんだけど、かわいそうなのは、このプレゼントのほうで……。だれにも使ってもらえずにゴミになってしまうなんて、あまりにもかわいそうで……。あの……もし、こんなの使えないよ――と思ったら、屑カゴに放り込んでくださってかまいませんから、もらってやっていただけませんか? お願いします」
言いながら、手提げ袋をその人の胸に押しつけるように差し出すと、私はそのまま、手を放した。
落ちようとする袋を、その人は、小さな手で支えた。
「通りすがりのメリー・リトル・クリスマスだと思ってください。では……」
そのまま、私は、歩き始めた。

フラれた腹いせにナンパしようなどという気は、さらさらなかった。
ただ、せっかくだれかにあげようと思った「メリー・クリスマス」の気持ちを、ムダにしたくなかった。ただ、それだけだった。
青になった信号を渡り始めると、「あのォ~」と呼びかける声を背中に聞いた。
その人が小走りに私の後を追って来た。
「交換です」
その人は、3時間近くも胸に抱え続けていた小箱を、私に向かって差し出していた。
「エッ、でも、あなたはまだ、待っていらっしゃるのでしょう、だれかさんを?」
「待っていたかっただけですから……」
「エッ……!?」
「来てくれたらうれしいけど……って、待っていただけですから。もう、いいんです」
「止めたんですか?」
「止めました。来ないだろう――と思いながら待っているのなんて、バカみたいだから、 もう、止めました」
小さな、小さな「メリー・クリスマス」の交換だった。
駅までくると、私とその小さな「人待ち人」は、手を振って別れた。
凍えそうだった夜が、ちょっとだけ暖かくなった。

P.S.
彼女の小箱に入っていた革の手袋を、私はそれから3年間使い続けた。私の小箱に入っていた指輪を彼女が使ってくれたかどうかは、わからない。名前も知らない、連絡先もわからないままの相手だったから――。
どちらさまも、メリー・リトル・クリスマス!


2012年11月リリース
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iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
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