アメリカ南部に揺れる「奇妙な果実」の話
不純愛トーク 第297夜
人は、何かにつけて人を「差別」しようとします。その最大のものが「肌の色」による差別。前回からお届けしている「白人」による「有色人種」の差別です。今回は、アメリカの南部で特に激しかった「黒人差別」について、ビリー・ホリデイの代表曲 『奇妙な果実』 を取り上げながら、その実態について、お話してみます――。
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AKI さて、本日は、哲ジイがその青春時代を過ごした1960年代の話をするんですよね。
哲雄 2010年代も「青春」でありますが……。
AKI それは、「回春」でしょ? あ、もしかして「回青春」か……。
哲雄 フン、勝手にぬかしてろ。ところで、AKIクンは、『奇妙な果実』をご存じでしょうか?
AKI それって、フルーツ?
哲雄 英語で言うと、「Strange Fruit」ですが、残念ながら千疋屋で売っているわけではありません。売っているとしたら、CDショップですね。
AKI ということは、楽曲……?
哲雄 ハイ。ジャズ・ボーカル界の大御所、ビリー・ホリデイが歌って、全米にセンセーションを巻き起こした大ヒット曲です。
AKI 私、聞いたことないです。
哲雄 と思ったので、《You Tube》で探しておきました。それが、こちら。
ビリーホリデイ「奇妙な果実」――You Tubeより
AKI ものすごく、暗い曲ですね。
哲雄 暗いを通り越して、陰惨で、ショッキングな曲です。というのも、ここで歌われている「奇妙な果実」というのは、「人間の死体」ですから。
AKI エッ、死体……? 人間の……?
哲雄 ハイ。リンチに遭ってポプラの木に吊るされた黒人の死体です。この歌が、どんな情景を歌っているのか、歌詞を私なりに和訳してみましたので、ご紹介しましょう。

――作詞/ルイス・アラン(訳・長住哲雄)
南部の木には、奇妙な果実が実る
葉にも、根にも血が滴り、
ポプラの木から吊るされて
黒い体を南の風に揺らしている奇妙な果実
それは、壮麗な南部の田園の風景
飛びだした眼球、ねじ曲がった口
甘く新鮮なモクレンの残り香
そこへ突然、生肉の焼ける臭い
その果実はカラスにつつかれ
雨にずぶ濡れとなり、風にしゃぶられ、
太陽に朽ちて、木から落ちる
奇妙で苦い収穫物となって
AKI なんか……言葉も出ない――という情景ですね。
哲雄 でも、これは「情景」なんかじゃなくて、「現実」だったんだよね。当時のアメリカの、特にルイジアナやミシシッピやジョージアといった南部諸州では、「クー・クラックス・クラン(KKK)」のような白人至上主義団体が、日常的に、黒人に対するリンチや、黒人が経営する商店への焼き打ちなんかを、繰り返していました。
AKI じゃ、この歌に出てくるような光景は、珍しくなかったんですね。
哲雄 ですね。この曲で歌われているリンチ殺人事件は、1930年8月に実際に起こった事件なんですが、それを報じた新聞記事を見たユダヤ人教師、エイベル・ミーアポル(ペンネームは、ルイス・アラン)が作詞したのが、この『奇妙な果実』という曲でした。少しショッキングかもしれませんが、当時、新聞に掲載された写真も添えておきました。
AKI それをビリー・ホリデイが見て、感動して自分の持ち歌にしたんですね?
哲雄 そのように言われてるし、ホリデイ自身も、自分が詩に曲をつけたかのように自伝の中で書いたりしてるけど、どうも、実際は違うらしい。
AKI エッ、違うの……?
哲雄 そもそも、ビリー・ホリデイは、詩に使われた単語の意味も理解できなかったし、そこに込められた政治的メッセージにも興味がなかったらしいんだよね。どちらかというと、エンタテイナーでありたいと思っているフシがあって、この曲をアランに聴かされたときも、「こういう(暗い)曲は、客に嫌われるんじゃないか」と思ったみたいだよ。
AKI じゃ、だれが、この曲に陽の目を見させたの?
哲雄 その頃、ビリー・ホリデイは、グリニッジ・ヴィレッジでバニー・ジョセフソンという男がやっていたナイト・クラブ「カフェ・ソサエティ」に、クラブ歌手として出演していたんだけど、そのジョセフソンが、なかなか先見の明に富んだ人物だったらしい。あまり乗り気じゃないらしいビリーに、「歌ってみろよ」とこの曲を勧め、それをステージのラスト・ソングにして、そのときには、クラブの明かりをすべて落とさせ、すべての給仕もストップさせて、顔に当たるスポットライト一本の中で、これを歌わせた。
AKI 演出したわけですね。反応はどうだったのかしら?
哲雄 客の中には不快感を示して、怒って帰っちゃったのもいたそうです。そりゃそうでしょ。酒を飲ませて楽しませるクラブで、こんな政治色の強い歌を陰々滅々と歌われたんじゃ、「酒がまずくならぁ」てなもんです。しかし、他の客は、そうじゃなかった。
AKI 感動したんですね?
哲雄 最初は、ビリーが歌い終わっても、客席はシーンと静まり返っていました。しかし、やがて、ひとりが「パチ、パチ……」と拍手する。すると、その拍手は客席全体に広がり、クラブ内は割れんばかりの拍手に包まれます。中には、泣きだす客もいる。以後、この曲は、彼女のステージを締める曲として使われるようになりました。それが、1939年の話。
AKI そんな昔……。で、そこから全米にヒットしたんですか?
哲雄 ウワサを聞きつけて、『TIME』がこの曲と詩を紹介し、ビリーの写真を誌面に掲載しました。『TIME』が黒人の写真を掲載したのは、それが最初だと言われてます。以後、この曲は、レコード化もされて大ヒットし、いつの間にか、ビリー・ホリデイの代表曲となっていくんですね。
AKI ね、哲ジイ、そういうリンチとかは、その後も続いたんですか?
哲雄 1964年に「公民権法」が成立するまでは、人種差別に由来するリンチや放火などの事件は、止むことがありませんでしたし、それに対する抗議行動も拡大していきます。ビリー・ホリデイの『奇妙な果実』は、その後、いろんな歌手によってリメイクされたり、カバーされたりして、公民権運動を支持する知識層などの間で、「黒人差別」を象徴する曲として、聞かれ続けることになるわけですね。オッ……と。
AKI どうしたんですか?
哲雄 ほんとは、きょうは、その公民権運動についてお話する予定だったのに……。
AKI 『奇妙な果実』の話で、いっぱいいっぱいになっちゃいましたね。
哲雄 仕方ない。その話は、次回、詳しく見てみることにしましょう。
AKI あっ……。
哲雄 どうしました?
AKI 哲ジイの頭にも、奇妙な果実、発見!
哲雄 よしなさい、それは、老人性イボです! 失礼な……。


2012年11月リリース
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