ローズマリーの詩〈13〉 飛んでいきたい。でも、その羽が重い

コーヒーと女5年という歳月は、愛を育てるのか?
迷う私に、おじはひと言、「後悔するなよ」と言った。


負傷して帰国するという、かつて私が愛した男。
会うべきか、会わざるべきか、迷っていると、
ブリ大根を作っていたおじが、ボソリと言った。
「命短し、恋せよ乙女かぁ。後悔するなよ」――。



 小説/ローズマリーの詩 ――― 第13章 
【リンク・キーワード】 恋愛小説 結婚 一夫一妻 純愛 エロ 官能小説


この話は連載13回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 雨が降ると、離れのおじの部屋からあの歌が聞こえてくる。調べてみると、それは『スカボロー・フェア』という曲だった。その歌には、パセリとセージとローズマリーとタイム、4種のハーブが登場する。その日、おじが作った夕食は、その4種のハーブを使った「チキンの香草焼き」だった。食事が終わると、おじは私に1枚のDVDを渡した。『卒業』という名の映画のDVDだった。そこに登場するベンジャミンとエレーンを、おじはもしかして、おじとおじのかつての恋人にダブらせているのだろうか? 私にもかつて、尊敬し、愛した男がいた。鳴尾聡史。アフリカで、飢えた子どもたちを救うボランティア活動に従事する男。しかし、私は、「一緒にアフリカに行かないか?」という彼の誘いに首を振った。勇気がなかったからだ。私は就職して、そこで巡り合った男がささやく「ふつうの幸せ」という言葉に揺らいだ。結婚の約束までしたが、しかし、彼が押し付けてくる「ふつうの幸せ」という形に耐えられなくなって、その結婚をドタキャンした。母に言わせれば、そんな私とおじは、「我が家の厄介者」だった。その厄介者のおじのところに、来客があった。「オウ、こないだ、彼女に会ったゾ」。その客が口にした言葉に、私は耳をそばだてた。私は、飲みに行くというおじたちについていった。おじたちに言わせると、私の鳴尾聡史は「青銅の騎士」なのだった。しかし、「騎士」としてその理想を追求する方法は、プロとして活動するばかりではない。プロにならなかった自分を責める必要はない、とおじたちは言う。おじの友人・尾崎さんの話だと、おじのかつての彼女は、草野駅の前でハーブ・パンを焼いて売っているという。私は、草野駅まで行ってみた。その人・真坂千里さんの店は「千の丘」といった。その店名は、『七つの水仙』という曲からとったという。そして、その歌をかつて彼女に歌って聞かせたのは、どうやら、おじらしかった。そのおじに千里さんから習ったガーリックトーストを作って食べさせながら、おじに訊いてみた。「昔、『七つの水仙』という曲、歌ってた?」。おじは、「そんなこともあったかねェ」ととぼけながら、その視線ははるかな時空をさまよった。次の週、再び、「千の丘」を訪ねた私に、千里さんは、ブルスケッタを作ってくれた。そのブルスケッタを日曜日、おじに食べさせた。おじは、ただ「懐かしい味がする」と言っただけだった。その午後、一通のエアメールが届いた。アフリカからだった。鳴尾聡史が内乱に巻き込まれて負傷し、帰国する、というのだった――。




 会うべきか?
 それとも、いまさら会うべきではないのか?
 そもそも、自分に、いまさら彼と会う資格があるのか?
 5年前、「卒業したら、ボクと一緒にアフリカに行かないか?」と言ってくれた鳴尾聡史の誘いを、自分は断った。
 勇気がなかったから……?
 目の前のありふれた平和にしがみついていたかったから……?
 たぶん、どっちもあった。
 おじと尾崎さんが、「思想のプロ」と言ったその「プロ」になる覚悟が、私にはなかったのだ。
 しかし、おじたちが「青銅の騎士」と言ってくれたその男は、体に傷を負って、日本に帰って来る。
 飛んででも会いに行きたい、という気持ちはあった。
 でも、その羽が、ちょっと重たい――。

        

 「どうした、浮かない顔をしてるね?」
 私は、もしかして、ロダンの「考える人」みたいになっていたのだろうか?
 夕食にブリ大根を作っていたおじが、キッチンに下りてきた私を見て、声をかけた。
 「ウン、ちょっと……」
 おじの鍋から、しょうゆのいい香りが立ち上っていた。
 鍋の中では、大根がアメ色に輝いている。
 「ウワッ、大根、いい色になってる。おいしそう!」
 「だろ? こいつは、味が滲みてうまいぞォ」
 「あれ? おじさん、これ、きのうから煮てなかった?」
 「そうだよ、沙世ちゃん。こういう煮物はさぁ、煮てすぐ食べても、あんまりうまくないんだ」
 「エッ、そうなの?」
 「一度、味をつけて煮たやつを、ひと晩、冷ましてやる。冷ますと、それまで温められて広がっていた材料の繊維、特に大根だな。こいつが、ウッ、冷えてきた……と思って、身を縮めるんだけどね、そのときに、糖分とか塩分とかの味の分子をその繊維組織の中に取り込んでしまうんだね。これが、味が滲みるということの科学的意味であ~る、なんちって……」
 ブリ大根が、思った味に仕上がっているせいだろうか、おじはちょっと饒舌だった。
 「そうして味が滲みたところへ、もう一度、火を通してやる。そうするとね、再び、繊維が広がって、そこへまた、新たに味が入り込んでいく。ほんとはさぁ、これを2、3回繰り返すといいんだよなぁ。しかし、腹を空かせた客は、それが待てない……と来たもんだ」
 おじは、ブリ大根の話をしながら、何か別のことを言おうとしている――と思った。

 参考  この小説に出てくる楽曲と映画は、こちらから

本作品中に登場する曲「スカボロー・フェア」は、サイモンとガーファンクルの『パセリ・セージ・ローズマリー&タイム』に、「七つの水仙」はザ・ブラザーズ・フォーの『グレイティスト・ヒット』に収録。登場する映画『卒業』は、DVD版とBlue Ray版が販売されていて、いずれも、アマゾンより購入できます。興味のある方は、ぜひ、ご覧になってみてください。

      



        

 「私も、待てないほうかもしれない……」
 言いながら、鍋に手を伸ばそうとしたら、おじにピシャリと手の甲をぶたれた。
 「実は、ボクも待てない口だったんだよ、若いうちはね」
 私の手をぶったおじは、小皿に大根のひと切れを取り分けて、「ホイ」と渡してくれた。
 箸をつけると、まるで豆腐のようにスーッと箸先が通っていく。
 「信じられないッ! 大根がこんなに軟らかくなるなんて……」
 私が驚くのを、おじは目を細めて見ている。切り分けたのを口に頬張ると、大根は口の中で溶けて、中から、しょうゆと酒とみりんがほどよく混じり合ったやさしい味が、口いっぱいに広がる。
 「おいしいッ!」と歓声を挙げると、おじも「どれ?」と箸を伸ばしてきて、ひと口頬張り、「ウン」とうなずいて言った。
 「カーッ、うますぎるぜ。よし、完成ッ!」
 ガスの火を止めたおじは、「どうだ?」と言わんばかりの顔をして言うのだった。
 「時間をかければ、いい味になる。人生もそういきたいもんだね、沙世ちゃん」
 「だって、おじさんも待てない人だったんでしょ?」
 「若いうちは……ね。何にでも、すぐ、結論を出したがった。人にも、それを求めたがった。しかしさ、人には、生涯をかけて答えを見つけなきゃいけないような問題だってある。そのとき、答えが見つからなかったからって、あせる必要はないんだと思うよ」
 「でも、そんなことやってたら、おばあちゃんになっちゃうよ」
 「命短し、恋せよ、乙女――とも言うしなぁ。そこが、むずかしいところよなぁ」
 おじは、茶化すように言って、満足げに鍋の中の大根を見つめている。大根を見つめていた目がカッと見開かれたと思うと、その口から、思いもしない言葉が飛び出した。
 「3年だな」
 「エッ……!?」
 「3年経てば、そのときの迷いの正体や、自分がどうすればよかったかが、何となく見えてくる。青かった考えも練れてくる。5年も経てば、もっと見えてくる。それ以上待つと、今度は、せっかく見えてきたものが、薄らいでいく。後悔するなよ、沙世ちゃん」
 このおじは、ときどき、タイミングよく心に引っかかることを言う。
 悔しいけど、それが、私の心を動かしたりする。

        

 夕食がすむと、TVを見始めた父と母をリビングに残して、私は2階の自分の部屋に戻った。
 窓を開けると、少し肌寒くなった秋の夜気が忍び込んできた。その窓から、おじの弾き鳴らすギターの音が聞こえてきた。
 あれ!? また、前の曲に戻ってる……。
 その夜の曲は、いつもの『スカボロー・フェア』だった。

 〈アー・ユー・ゴーイング・トゥ・スカボロー・フェア、
 パースリー・セージ・ローズマリー・アンド・タイム……〉

 その歌が、私に「会いに行くのかい、あの人に?」と問いかけているように聞こえた。
 彼女を追って大学のある街まで行く、ベンジャミンの姿がまぶたに浮かんだ。
 そうだ――と、携帯を手にして、登録してあるワンタッチダイヤルをプッシュした。
 呼び出し音が聞こえる。
 ギターの音が止んだ。
 「ハイ、どうした?」
 受話器の向こうから、「子ども電話相談室」のような声が聞こえた。
 ⇒続きを読む



管理人の本、スマホで好評配信中です。よろしければ、ぜひ!

モテ会話術25『男と女のモテ会話術』
2012年11月リリース
好評! App Storeで上位ランキング中!
iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
iPhone、iPadでご覧になりたい方は、こちら(iTuneダウンロードページ)から

13 あなたの感想をClick Please!(無制限、押し放題!)
管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。


→この小説はテーマ・構成がいい(FC2 恋愛)
→この小説の描写・表現に感動する(にほんぶろぐ村 恋愛)
→この小説はストーリーが面白い(人気ブログランキング 恋愛)

 →この小説の目次に戻る       →トップメニューに戻る  

関連記事
拍手する

テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

コメントの投稿

非公開コメント

ご訪問ありがとうございます
現在の閲覧者数:
Profile
プロフ画像《当ブログの管理人》
長住哲雄…独自の人間関係論を元に、数々の著書を刊行してきたエッセイスト&編集者。得意ジャンルは、恋愛論やコミュニケーション論。

    姉妹サイト    

《みなさんの投票で恋愛常識を作ります》
★投票!デート&Hの常識

《管理人の小説をこちで保管》
おとなの恋愛小説倶楽部

《シニア向けサイトも運営しています》
晩年clubロゴ

Since 2009.2.3

▼こちらの市民です。


アクセスランキング

管理人・長住哲雄の近著
  Kindle でお読みください〇〇

写真をクリックすると、詳細ページへ。

最新刊
長編小説

『妻は、おふたり様にひとりずつ』
2016年3月発売
虹BOOKS

3人に1人が結婚できなくなる
と言われる格差社会の片隅で、
2人の男と1人の女が出会い、
シェア生活を始めます。
愛を分かち合うその生活から
創り出される「地縁家族」とは?
定価:342円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.2


『「聖少女」
6年2組の神隠し』

2015年7月発売
虹BOOKS

ビンタが支配する教室から
突然、姿を消した美少女。
40年後、その真実をボクは知る…。
定価:122円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.1


『チャボの
ラブレター』

2014年10月発売
虹BOOKS

美しい養護教諭・チャボと、
中学生だった「ボク」の淡い恋物語です。
定価:122円

   全国有名書店で販売中〇〇〇

写真をクリックすると、詳細ページに。

新刊です!
『すぐ感情的に
なる人から
傷つけられない本』

2015年9月発売
こう書房
定価 1400円+税

あなたを取り巻く
「困った感情」の毒から
自分を守る知恵を網羅!



『これであなたも
「雑談」名人』


2014年4月発売
成美堂出版
定価 530円+税


あなたの「雑談」から
「5秒の沈黙」をなくす
雑談の秘訣を満載!



『モテる大人の
ほめルール』

2013年8月発売
こう書房
定価 1400円+税


人は、ホメてくれるあなたを
「好き」になる!
そんなホメ技術を満載!



男と女のモテ会話新1202000部増刷!
『男と女の
モテ会話術』

2012年7月発売
こう書房
定価 1400円+税

30秒で心を開かせ、
10分で好きにさせる心理マジック!

   スマホでも好評配信中!   
ダウンロード価格 100円
★iPhone、iPadでご覧になりたい方は、
⇒こちらのダウンロードページから



30秒でつかみ、
1分でウケる
『雑談の技術』


2007年6月 こう書房
定価 1300円+税


「あの人と話すと面白い」
と言われる
雑談のテクを網羅。

★オーディオブック(CD)も、
好評発売中です!




――など多数。
ランキング&検索サイト
    総合ランキング・検索     

FC2ブログ~恋愛(モテ)
にほんブログ村~恋愛観
にほんブログ村~恋愛小説(愛欲)
人気ブログランキング~恋愛



   ジャンル別ランキング&検索  

《Hな小説の検索サイトです》
正しいH小説の薦め正しいH小説の薦め


《Hな体験、画像などの検索サイト》
愛と官能の美学愛と官能の美学


《小説のジャンル別検索サイト》
オンライン小説ランキング★カテゴリー別
オンライン小説ranking


《あらゆる創作系サイトの検索に》
駄文同盟.com駄文同盟.com


《当ブログの成分・評価が確認できます》
blogram投票ボタン


おすすめ恋愛サイトです
いつも訪問している恋愛系ブログを、
独断でカテゴリーに分けてご紹介します。

悪魔
勉強になります
「愛」と「性」を
究めたいあなたに


《性を究める》
★カラダ開発研究ブログ
★性生活に必要なモノ
★男と女のエッチの秘密
★アラフォー女性のための夫婦性活なび
★セックスにまつわるエトセトラ
★飽きないセックスを極める
★真面目にワイ談~エロ親父の独り言
★彼女達との性ライフ
★恋する熟女



《性の不安に》
★自宅でチェック! 性病検査

《愛を究める》
★プライド
★セカンドバージン卒業まで

《男を磨く・女を磨く》
★かっこいい女への道
★予算15,000円でプレゼントする
本格ジュエリー「me.luxe」


女の子「男と女」はまるで劇場
いろいろな愛の形
その悦びと不安


《不倫》
★不倫ポータルネット
★幸せネル子の奔放自在な日々

《MとSの話》
★M顔で野生児だった私の半生

《国際結婚》
★アンビリーバブルなアメリカ人と日本人

《障害者とフーゾク》
★KAGEMUSYAの裏徒然日記

妻くすぐられます
カレと彼女の
ちょっとHな告白


★さくら夫婦のSEX記録
★嫁の体験リポート
★恵子&誠
★レス婚~なんだか寂しい結婚生活
★おしりちゃんの部屋
★木曜日のアモーレ New



女王写真&Hな告白
赤裸な姿を美しく
大胆に魅せてくれます


《美しい自分を見せて、読ませてくれます》
★Scandalous Lady
★みっち~の部屋

音楽女
ちょいエロなサイトです
他人の愛と性を
のぞき見


《Hな投稿集》
★人妻さとみの秘密の告白
★内緒の恋愛体験を告白


上記分類にご不満のブログ運営者さまは、管理人までご連絡ください。
創作系&日記系☆おすすめリンク
読むたびに笑ったり、感動したり、
勉強になったりするサイトです。

女の子ヘッドホン

読む悦び、見る愉しみを!
小説&エッセイ&写真

《官能小説》
萌木ケイの官能小説
ひとみの内緒話
riccia
★~艶月~
★妄想の座敷牢~紅殻格子の世界
★愛ラブYOU

《おとなのメルヘン&ラブストーリー》
★月夜の602号室
★小夜嵐
Precious Things

《ミステリー》
★コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

《愛の詩・時代の詩》
★Poem Spice 久遠の詩
★罵詈雑言~本能ノ赴クママニ
★メランコリックノイローゼ

《書評・レヴュー・文芸批評》
★新人賞を取って作家になる
★頭おかしい認定ニャ
★読書と足跡
★緑に向かって New

《写真&詩、エッセイ、日記》
★中高年が止まらない New
★質素に生きる
★エッチなモノクローム
★JAPAN△TENT
★いろいろフォト

傘と女性ユーモアあふれるブログです
いつもクスリと
笑わせられます


《風刺効きまくりです》
★ねじを巻け、そして服を脱げ。
★ショートショート
 とりぶうの読むコント~宮古島

★The Door Into Summer

スクーター
社会派なあなたへ
政治のこと、社会のこと

《政治批評&社会批評》
★真実を探すブログ
★Everyone says I love you!



    素材をお借りしました     

★写真素材・足成
★無料画像素材のプロ・フォト
★カツのGIFアニメ
★無料イラスト配布サイトマンガトップ

上記分類にご不満のブログ運営者さまは、
管理人までご連絡ください。
にほんブログ村ランキング
にほんブログ村内の各種ランキング、 新着記事などを表示します。
アクセスランキング
リンク元別の1週間のアクセス・ランキング。

検索フォーム
QRコード
QR