第38夜☆「チッ!」と言わせる脳、「まァまァ…」となだめる脳
第38夜
「愛とは何か?」をめぐって、管理人・哲雄がパートナー・AKIを相手に展開する、オヤジ・ギャグ風+ちょっぴりアカデミックおしゃべり。前回は、「好き」「嫌い」の感情を生み出す脳のパーツ「扁桃体」が受け取る情報として、嗅覚と触覚がきわめて重要と話したところ。しかし、現代人は、その触覚に関して、センサーが粗くなっているのではないか?――今回は、そのあたりを中心に、話が進む予定です。
哲雄 AKIちゃんって、何かね、やっぱり……「チッ!」とか言う人かね?
AKI 突然、何ですか、それ?
哲雄 よく言う人がいるじゃないですか。たとえば、駅の通路を歩いているときに、だれかのカバンが自分の脚にぶつかったとか、下向いて歩いてきたおっさんとあやうくぶつかりそうになったとか、そんなときに、「チッ!」って。
AKI 哲ジイ、下向いて歩くからなぁ……。
哲雄 だからね、そういう問題じゃなくて、「チッ!」と言うかどうか。
AKI 私は、そんなこと言いませんよ。たとえ、バーゲンセールでねらってたブラを、後ろから割り込んできたオバサンに横取りされても……。
哲雄 エッ、エッ!? AKIちゃんのブラは、バ、バーゲン品?
AKI という問題はどうでもよくて、「チッ!」と言うかどうかでしょ。私は言いません。「キャッ」とは言うかもしれないけど。あ、でも、人から言われることはありますよ。言われると、ものすごく気分わるいけど……。
哲雄 だよね。その「チッ!」は、脳のどこが言わせる言葉か?
AKI 扁桃体と言いたいわけですね、哲ジイ。
哲雄 きょうの話はややこしいから、最初に図で説明しよう。
AKI オーッ、すごい図が出てきました。
哲雄 これはね、だれかに足を踏まれたとき、脳の中で何が、どのように、どういう順番で起こるかを、ものすごく単純化して図解したものなんだ。
AKI こ、これで単純?
哲雄 ま、この他にもいろんな部位が関係するんだけど、話をわかりやすくするために、簡単にしてみました。まず、足を踏まれると、「痛いッ」と感じるよね。「痛覚」を担当する神経細胞が、その情報を脳に運びます。最初に到達するのが、この扁桃体。
AKI ね、哲ジイ、この太い線と細い線は?
哲雄 太い線は、ものすごく強く踏まれたとき、細い線は、ちょっと踏まれたとき。強く踏まれるほど、強い信号が脳に運ばれる――ということを示したわけです。
AKI でも、どうして最初に扁桃体なの? あ、そうか……ウイルスバスターだからね、扁桃体は。
哲雄 ま、似たようなものとしておきましょう。とにかく、この扁桃体は、身体に迫る危険をいち早く察知して、それを回避したり、防御したり、反撃したり……という行動をとるように、運動連合野を通して、それぞれの運動野に指示する。
AKI 哲ジイの手が私のおシリを触ったら、その手を払いのける……みたいな反応ですね。
哲雄 えーと、そういう場合、指令が直接、運動野に行くことはないデス! 扁桃体から前頭前野に情報が送られて、「この手、どうしましょうか?」と、お伺いを立てることになるな……たぶん。なぜなら、キミは、その手を拒否すべきか、受け入れるべきか、心の奥深いところでは迷っているから、ほんとうは……。
AKI 迷ってませんッ! 即刻、運動野に指令を送って、払いのけます。
哲雄 そういう脳を「キレる脳」と言います。
AKI 別に、キレてるわけじゃなくてェ……。
哲雄 いや、キレてるんです。というのもね、この前頭前野(ぜんとうぜんや)っていうのは、人間にものごとを深く考えさせたり、創造的に考えさせたりするパーツなの。人間を人間らしくさせてる脳と言ってもいい。たいていの情報は、扁桃体をスルーして、この前頭前野に送られて、「どうしようか?」と考えた上で行動を起こすようになってるんです。ところが、「キレる」という状態では、この前頭前野に行くルートが、ショートカットされてしまいます。
AKI 考える間もなく、体が反応を起こすってこと?
哲雄 さっきの「足を踏まれた」というケースで考えてみようか。強く踏まれると、強い信号が扁桃体に届くよね。こういう信号は、身体に危険を及ぼしかねない情報と判断されるから、扁桃体から直接、各運動野に指令が行ってしまいます。「チッ!」と口走り、相手の体を突き返す――なんていう行動を、とっさにとってしまうわけだ。
AKI やっぱり、「チッ!」は、扁桃体が言わせる言葉なのね。
哲雄 正確に言うと、扁桃体が「運動性言語野」を通して言わせる言葉。「キャッ」も「キャーッ」も「ヒィーッ」も同じだと思っていいです。しかし、このとき、同じ情報が、同時に前頭前野にも送られる。
AKI この太い破線のルートですね。
哲雄 前頭前野は、この情報を受け取ると考えるわけです。確かに、足を踏まれたけど、どうやらわざと踏んだわけでもなさそうだ。たぶん、電車が揺れたせいだな……とかね。
AKI ま、そう、カッカとするなよ――と扁桃体をなだめる?
哲雄 扁桃体をなだめると同時に、運動野にも、怒りの行動を止めるように指示する。
AKI でも、こいつ、わざと踏んだな――と判断したときは?
哲雄 そのときは、防御行動をとり続けるように指示したり、こいつ、強そうだから、口で抗議するだけにしておこうと考えたり……状況や自分の主義・信条に照らし合わせた判断を下すわけです。
AKI じゃ、もっと軽い踏まれ方をしたときは?
哲雄 いきなり運動野に指令が行ったりはせず、いったん前頭前野に情報が回されます。「なんか……踏まれてるみたいなんだけど、どうしよう?」ってね。ところが、中には、この回路がほとんど働かない人もいる。
AKI わかった。ちょっと肩がぶつかっただけでも、「チッ!」とか言っちゃう人ね。
哲雄 つまりキレてるわけです。何がキレてるかと言うと、この前頭前野に行く線がキレてる。つまり、ショートカット。
AKI 前頭前野に行かずに、この細い破線のほうへ行っちゃうわけだ。でもさ、どうしたら、その線がキレたりするわけ?
哲雄 使ってないとキレます。脳の中の配線っていうのはさ、あらかじめできあがってるわけじゃないんだよね。必要に応じて、作られていく。使えば、どんどん増えて、配線が密になっていくけど、使ってない線は、どんどん消えていくんです。
AKI それ、怖いなァ。
哲雄 たとえば、「好き」と「嫌い」だけでものごとを判断したりする人の配線は、この前頭前野ルートがものすごく弱くなってる、と考えられます。世の中には、このルートを省略して、反応速度をアップしようとする訓練さえ存在するんだよね。
AKI エッ、エッ!? そんな訓練があるの?
哲雄 ある種のTVゲームがそうですね。その種のゲームを上達させるコツは、「考える前に反応せよ」。つまり、一生懸命、ショートカットの訓練をしていることになるわけです。『ゲーム脳の恐怖』を書いた森 昭雄さんは、そこらへんの怖さを指摘してるんだけどね。
AKI ロール・プレイ型のTVゲームって、ほとんどそうじゃない?
哲雄 森先生は、そう言ってるね。AKIちゃんは、そういうゲームは?
AKI 私は、あんまり好きじゃない。
哲雄 よかった、ほんとによかった……。そういうAKIちゃんなら、愛に満ちた私の手を、むげに払いのけたりは……。
AKI しますッ! 断固として払いのけますッ!
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哲雄 だよね。その「チッ!」は、脳のどこが言わせる言葉か?
AKI 扁桃体と言いたいわけですね、哲ジイ。
哲雄 きょうの話はややこしいから、最初に図で説明しよう。

哲雄 これはね、だれかに足を踏まれたとき、脳の中で何が、どのように、どういう順番で起こるかを、ものすごく単純化して図解したものなんだ。
AKI こ、これで単純?
哲雄 ま、この他にもいろんな部位が関係するんだけど、話をわかりやすくするために、簡単にしてみました。まず、足を踏まれると、「痛いッ」と感じるよね。「痛覚」を担当する神経細胞が、その情報を脳に運びます。最初に到達するのが、この扁桃体。
AKI ね、哲ジイ、この太い線と細い線は?
哲雄 太い線は、ものすごく強く踏まれたとき、細い線は、ちょっと踏まれたとき。強く踏まれるほど、強い信号が脳に運ばれる――ということを示したわけです。
AKI でも、どうして最初に扁桃体なの? あ、そうか……ウイルスバスターだからね、扁桃体は。
哲雄 ま、似たようなものとしておきましょう。とにかく、この扁桃体は、身体に迫る危険をいち早く察知して、それを回避したり、防御したり、反撃したり……という行動をとるように、運動連合野を通して、それぞれの運動野に指示する。
AKI 哲ジイの手が私のおシリを触ったら、その手を払いのける……みたいな反応ですね。
哲雄 えーと、そういう場合、指令が直接、運動野に行くことはないデス! 扁桃体から前頭前野に情報が送られて、「この手、どうしましょうか?」と、お伺いを立てることになるな……たぶん。なぜなら、キミは、その手を拒否すべきか、受け入れるべきか、心の奥深いところでは迷っているから、ほんとうは……。
AKI 迷ってませんッ! 即刻、運動野に指令を送って、払いのけます。
哲雄 そういう脳を「キレる脳」と言います。
AKI 別に、キレてるわけじゃなくてェ……。
哲雄 いや、キレてるんです。というのもね、この前頭前野(ぜんとうぜんや)っていうのは、人間にものごとを深く考えさせたり、創造的に考えさせたりするパーツなの。人間を人間らしくさせてる脳と言ってもいい。たいていの情報は、扁桃体をスルーして、この前頭前野に送られて、「どうしようか?」と考えた上で行動を起こすようになってるんです。ところが、「キレる」という状態では、この前頭前野に行くルートが、ショートカットされてしまいます。
AKI 考える間もなく、体が反応を起こすってこと?
哲雄 さっきの「足を踏まれた」というケースで考えてみようか。強く踏まれると、強い信号が扁桃体に届くよね。こういう信号は、身体に危険を及ぼしかねない情報と判断されるから、扁桃体から直接、各運動野に指令が行ってしまいます。「チッ!」と口走り、相手の体を突き返す――なんていう行動を、とっさにとってしまうわけだ。
AKI やっぱり、「チッ!」は、扁桃体が言わせる言葉なのね。
哲雄 正確に言うと、扁桃体が「運動性言語野」を通して言わせる言葉。「キャッ」も「キャーッ」も「ヒィーッ」も同じだと思っていいです。しかし、このとき、同じ情報が、同時に前頭前野にも送られる。
AKI この太い破線のルートですね。
哲雄 前頭前野は、この情報を受け取ると考えるわけです。確かに、足を踏まれたけど、どうやらわざと踏んだわけでもなさそうだ。たぶん、電車が揺れたせいだな……とかね。
AKI ま、そう、カッカとするなよ――と扁桃体をなだめる?
哲雄 扁桃体をなだめると同時に、運動野にも、怒りの行動を止めるように指示する。
AKI でも、こいつ、わざと踏んだな――と判断したときは?
哲雄 そのときは、防御行動をとり続けるように指示したり、こいつ、強そうだから、口で抗議するだけにしておこうと考えたり……状況や自分の主義・信条に照らし合わせた判断を下すわけです。
AKI じゃ、もっと軽い踏まれ方をしたときは?
哲雄 いきなり運動野に指令が行ったりはせず、いったん前頭前野に情報が回されます。「なんか……踏まれてるみたいなんだけど、どうしよう?」ってね。ところが、中には、この回路がほとんど働かない人もいる。
AKI わかった。ちょっと肩がぶつかっただけでも、「チッ!」とか言っちゃう人ね。
哲雄 つまりキレてるわけです。何がキレてるかと言うと、この前頭前野に行く線がキレてる。つまり、ショートカット。
AKI 前頭前野に行かずに、この細い破線のほうへ行っちゃうわけだ。でもさ、どうしたら、その線がキレたりするわけ?
哲雄 使ってないとキレます。脳の中の配線っていうのはさ、あらかじめできあがってるわけじゃないんだよね。必要に応じて、作られていく。使えば、どんどん増えて、配線が密になっていくけど、使ってない線は、どんどん消えていくんです。
AKI それ、怖いなァ。
哲雄 たとえば、「好き」と「嫌い」だけでものごとを判断したりする人の配線は、この前頭前野ルートがものすごく弱くなってる、と考えられます。世の中には、このルートを省略して、反応速度をアップしようとする訓練さえ存在するんだよね。
AKI エッ、エッ!? そんな訓練があるの?
哲雄 ある種のTVゲームがそうですね。その種のゲームを上達させるコツは、「考える前に反応せよ」。つまり、一生懸命、ショートカットの訓練をしていることになるわけです。『ゲーム脳の恐怖』を書いた森 昭雄さんは、そこらへんの怖さを指摘してるんだけどね。
AKI ロール・プレイ型のTVゲームって、ほとんどそうじゃない?
哲雄 森先生は、そう言ってるね。AKIちゃんは、そういうゲームは?
AKI 私は、あんまり好きじゃない。
哲雄 よかった、ほんとによかった……。そういうAKIちゃんなら、愛に満ちた私の手を、むげに払いのけたりは……。
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