「ホームドラマ」は、なぜ、衰退したのか?
不純愛トーク 第281夜
19世紀に産声を上げた「フェミニズム」には、2つの流れがありました。ひとつは、「女を苛酷な労働から守れ!」という母体保護運動。もうひとつは、「女を解放せよ!」と叫び、社会の中に存在するあらゆる「差別」に抗議する女性解放運動。後者は、その後、「ウーマン・リブ」の運動へとつながっていきます。今回は、これらの運動で、ほんとうに女性は解放されたと言えるのか、という話をご紹介します――。
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AKI 「女を守れ!」っていうフェミニズムと、「女を解放しろ!」というフェミニズム。2種類のフェミニズムは、その後、どういうふうに変わっていったんですか?
哲雄 「守れ!」のほうは、「保守化」していきました。
AKI 保守化……ですか?
哲雄 もともと、「母体保護」という観念から出発しているわけですから、どうしても、その行き着く先は、「女を家庭に戻せ!」ってことになってしまいます。
AKI つまり、専業主婦?
哲雄 そうです。この動きが特に顕著だったのは、第二次世界大戦後のアメリカですね。大戦中は、人手が足りないことから、アメリカでも、女性が工場などの働き手として労働に従事したのですが、戦争が終わって、従軍していた男たちが職場に戻って来ると、「さぁ、女たちよ、家庭に戻りましょう」というキャンペーンが張られたんですね。
AKI 勝手っちゃ、勝手ですよね。
哲雄 ハイ、勝手だと思います。その頃のアメリカ社会が理想とした家庭像というのは、郊外に家を持って、ホワイトカラーの夫を良妻賢母な妻が支え、子どもを2人か3人育てる――というパターンなんだよね。いわゆる「マイホーム主義」。
AKI それ、日本でも主流になりませんでした?
哲雄 なりました。アメリカに少し遅れて、1950年代から1960年代前半にかけて、アメリカのホームドラマが描く「マイホーム」は、多くの日本女性にとって、理想像と考えられるようになりました。『アイ・ラブ・ルーシー』とか『うちのパパは世界一』とかが、流行ってた時代ですね。
AKI エッ、それ、知らな~い。
哲雄 日本でも、池内淳子さんがお母さん役を演じる『ただいま11人』とかね。
AKI それも知らな~い。
哲雄 キミが生まれた時代には、「ホームドラマの時代」は終わってましたからね。
AKI 終わった……。
哲雄 正確に言うと、「ホームドラマ」が描き出すような「マイホーム」が、女性の理想であった時代が終わった――ということですね。1960年代になると、アメリカでベティ・フリーダンらの主張する「ウーマン・リブ」の運動が産声を上げ、世界中に広がっていきました。
AKI 日本にも?
哲雄 ハイ。70年代に入って、榎美沙子の「中ピ連」(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性連合)が誕生して、過激な活動を開始するなどしました。ただ、この「中ピ連」は、その活動がいささかスタンドプレー的でした。
AKI スタンドプレー? 何か派手なパフォーマンスをやったんですか?
哲雄 「♀」マークのついたどピンクのヘルメットをかぶって、たとえば、どこかの管理職がセクハラした――なんてことがあると、集団で乗り込んでいって、本人を吊し上げたり……とか。
AKI ワッ、すご! やられたほうは、ダメージ残りますね。もう、活動してないんですか、その団体は?
哲雄 何か、ご用でも……? なんなら、私が代行してもよろしいですけど……。
AKI いえ、けっこうです。で、その後、その「中ピ連」は、どうなったんです?
哲雄 政界進出を図ったりしたんですが、何しろ、そのマニュフェストが、「内閣を全員、女性にしろ」なんていう突拍子もないものでしたから、まったく、国民の支持を得られず、結局、社会からは姿を消してしまいました。日本で、「ウーマン・リブ」が地に足を着けた運動として成長できなかったのは、ひとつには、こういう「目立てばいい」式のパフォーマンスばかりが先行したせいでもあろう――と思うんですよ、私は。
AKI 「♀」マーク入りのヘルメットなんて、私もかぶりたくありませんもの。
哲雄 ま、おしゃれじゃありませんわなぁ。
AKI ね、哲ジイ。本来の「ウーマン・リブ」運動って、ほんとうは何をネラってたんですか?
哲雄 初期の「ウーマン・リブ」が目指したのは、「女性差別からの解放」でした。それまでの社会が「女らしさ」という名のもとに、女性に押し付けてきた政治的・社会的差別を取り払って、女性を解放しようという運動だったんですね。
AKI それって、いまではかなり、達成されてるんじゃないですか?
哲雄 表面的にはね。
AKI エッ、表面的には……ってことは、本質的には解決されてないということですか?
哲雄 私は、そう思ってます。たとえば、管理職の何分の1かは女性でなければならないとか、企業を人材を採用する際に、「男子」とか「女子」という区別をしてはならないとか、そういう表面的な目標値が設定されただけで、ほんとうに「女だから」とか「女のくせに」という差別意識が取り払われたかというと、どうもそうは思えない。むしろ、改悪されたのではないか――と思える部分さえあります。
AKI 改悪された……? たとえば、どういうところですか、それ?
哲雄 差別をなくすってことで、取り払われてしまった規制があります。たとえば、女性の深夜労働を禁止するとか、8時間以上の労働を禁止するとか、本来、「母体保護」のために設けられていた規制が取っ払われて、女性を過酷な労働に就かせることもできるようになった。何よりも、問題なのは、こういう規制緩和に合わせて、どさくさまぎれのように行われた、もうひとつの規制緩和がありまして……。
AKI エッ、何、なに?
哲雄 派遣労働に関する規制緩和と職業あっせんに関する規制緩和です。これこそ、日本に大量のワーキング・プアを生み出すことになった最大の原因なんですが、実は、これには、女性の責任も大きいと思ってるんです、私は。
AKI どういうこと?
哲雄 働く機会を平等に与えろ――と要求しながら、片方では、「自由に働きたい」というニーズをふくらませていく。「自由に」というのは、働きたい期間だけ、働きたい時間に合わせて働かせろ、という要求なんですが、「ええ、そういう働き方もできますよ」と言って登場したのが、「テンポラリー・センター」とか「テンプ・スタッフ」とかの派遣会社なんですね。で、国は、これを自由化しちゃった。
AKI わかった。派遣社員が、どの会社でも増えちゃった?
哲雄 いいですか、AKIクン。「自分の都合で働いたり、働かなかったりできる」ということは、会社の都合で「雇用したり、クビにしたりできる」ということでもあるわけです。こういう雇用スタイルが自由に取れるようになったら、働く人間、つまり労働者の立場はメチャクチャ弱くなります。
AKI でも、それ、女だけのせいではないでしょう?
哲雄 「だけ」とは言わないけど、そういうニーズをふくらませていったのは、どちらかと言うと、女性のほうだと思いますよ。男は就職先を選ぶときに、「ずっと安定して働けるかどうか」を重視しますが、女はどちらかと言うと、「気楽に、自由に働けるかどうか」を重視する傾向が強い。心のどこかで、「寿退社もありだよね」と思ったりしてるでしょ?
AKI そういう人も少なからずいるとは思いますけど、そうではない人もいると思いますよ。私の友だちでも、「女社長になる」を夢見てガンバってる人、いますもの。
哲雄 「女社長になる」が「いい夢」かどうかは別にして、いるでしょうね、そういう人も。でも、マジョリティじゃない。私はね、日本で「ウーマン・リブ」の運動が、しっかりした運動として根づかなかった背景には、「女性差別」を口にする人たちの意識の低さがある――と思っているんですよ。
AKI 意識の低さ――ですか? 具体的には、どういうところが?
哲雄 「女性の解放」を、単に「男からの解放」というレベルでしか語れなかった
――という問題意識の低さです。
AKI え、それ、よくわかんない……。
哲雄 本来の「ウーマン・リブ」は、対男性闘争なのではない! そこのところをしっかり踏まえてないと、単なる「紅白合戦」になってしまいます。しかし、そこを説明するのは、ちょっとやっかいなので……。
AKI わかりました。次回に続く――ですね? ところで、哲ジイも、吊し上げられたんですか、「中ピ連」に?
哲雄 いいえ。吊し上げられたかったですけどねェ、個人的には。
AKI ハ……?


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