ミセス・ボディショット〈14〉 見守る車椅子の人

幸恵は聡史との一部始終を亭主に報告していると言う。
自分は、亭主公認の「遊び相手」なのか…?
決勝の日、ロビーには車椅子の男の姿があった――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈14〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んで、見事なフォーメーション・プレーを見せ、相手ペアを下した。至福の瞬間だった。なぜか、幸恵と組むと、聡史の足は燃えた。その数週間後、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。「オレと組まない」と誘いかけてくる大沢の誘いを断って、幸恵がパートナーに選んだのは、聡史だった。「サーブに不安がある」と言う聡史を、幸恵はプライベート・レッスンに誘い、さっさとコートを予約。それは、聡史のオフィスのすぐ近くにある都営のコートだった。練習が終わると、幸恵が「オフィスのシャワーを借りたい」と言い出した。トレーナーの下から湯上りの脚をのぞかせて立つ幸恵。ふたりの唇は、どちらからともなく近づき、ふたりは小さな罪を犯した。やがて大会の予選が始まった。1回戦の相手は、格上のUMペア。しかし、海野・有賀ペアは、絶妙のフォーメーション・プレーで、その強敵を下した。続く2回戦を快勝して、3回戦は、またもUMペアとの対戦。ゲームはデュースを繰り返して20-20の熱戦となった。疲れはピーク。ファースト・サービスをミスった聡史に幸恵が耳打ちする。「このゲーム取ったら、お尻触らせてあげる」。燃えた聡史のサーブが決まって、3回戦突破! 「ふたりだけで祝勝会しない?」と幸恵が言い出した。「亭主公認だから」と言う幸恵は、聡史の手を取ると、それを自分の臀部に導いた。「約束したものをあげる」と――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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自分は、亭主公認の遊びの対象なのか、それとも……?
店を出て駅までの道をたどる間、聡史は、ずっとそのことを考えていた。
「海野さんのマンション、ここから近いの?」
聡史の腕に腕をからませながら、幸恵が顔をのぞき込んでくる。
もし、幸恵の夫の話を聞いていなければ、「ちょっと寄っていく?」と声をかけたところだろうが、なんだか、それはフェア・プレーに反するような気がした。
「近いよ。いつか、カレを連れて遊びに来るといい」
聡史の返事に、幸恵は、「フーン」と意味ありげにうなった。
「それ、言っちゃうよ、旦那に。けっこう、本気にするわよ、うちの人」
「いいよ」
「変なこと、お願いされるかもしれないし……」
「変なこと?」
「変わってるから、私の旦那」
その「変なこと」が何だかは、幸恵の口からは語られなかった。
そんなことを話しているうちに、あっという間に駅に着き、幸恵は、「きょうは楽しかった、ありがとう」と、右手を差し出してきた。
聡史がその手を握ると、幸恵は倍の力で聡史の手を握り返してきた。
「いい日だったわ。ゲームも感動的だったし、お酒もおいしかった。ほんとは……あ、いや、何でもない。来週の決勝戦、ガンバろうね。じゃ……」
握り合った手から力が抜けていく。
しかし、すぐには離れない。
名残惜しそうに指を絡め合いながら、ゆっくりと離れていく手と手。やがて、幸恵の指の最後の一本が、スルリ……と、聡史の手を離れた。
メトロの階段を上っていく幸恵の姿が見えなくなると、聡史はフゥと息を吐いて、体を反転させた。

たぶん、幸恵は、家に帰ったら、今日の祝勝会のことを夫に話すのだろう。
どんなふうに……?
尻を自分の手に撫でさせたことも、その指が尻の割れ目に食い込んだことまでも、リアルに語って聞かせるのだろうか……?
それを聞いたら、幸恵の夫は、どう感じるのだろう?
女房の体に触れる男を憎悪したりはしないのだろうか?
それとも、触れさせた妻の不貞をなじり、精神的になぶって喜ぶのだろうか?
しかし、幸恵の話しっぷりからすると、幸恵の夫には、そういう話を聞いて楽しんでいるフシも見受けられる。
では、幸恵はどうなのか?
もはや、自分を肉体的には愛せなくなった夫を、恨めしく思ったりはしてないのだろうか?
満たされない肉の欲に、はけ口が欲しいと思っていないのだろうか?
聡史のことを夫に報告する――というのは、夫への思いやりなのか、それとも夫がその胸の内でたぎらせるでろう嫉妬を、愛の行為の代償として楽しむためなのか?
家に帰り着くと、聡史は服を脱ぎ、浴槽に熱めの湯を貯めて、首まで湯に浸かった。
目を閉じると、幸恵の尻の割れ目に潜り込んだ指先の感触が、脳の奥によみがえった。
湯煎にかけたコンニャクのような感触。力を加えれば、ズブリ……と潜り込んでいきそうに見えた、繊細な弾力。その弾力に触れた途端に、幸恵が漏らした熱い息。
それらの記憶のすべてが、脳の奥から這い出して、聡史の体を燃やした。
そっと、手を湯の中に潜り込ませて、目覚めた欲望の正体を握り締める。
その硬直が、幸恵の体にめり込む瞬間を想像して、グイと腰を突き上げる。
バスタブいっぱいに張った湯が、ザバッとあふれて、床に流れ落ちた。

予選の決勝の相手は、Uクラスのペアだった。
どう見ても、勝ち目はない。
関東大会への出場権はすでに手にしているので、何が何でも勝たなければいけない、というゲームではなかったが、だからと言って、適当に流せばいい――というわけでもない。
自分たちのテニスが、2レベルも上の相手にどこまで通じるか、試してみる絶好の機会とも思われた。
スクールに着くと、すでに有賀幸恵は着替えをすませて、聡史を待っていた。
「やあ」と手を振ると、幸恵も「ハーイ!」と手を振る。
イスを引いて座ろうとすると、「あ、海野さん」と幸恵が立ち上がった。
「紹介するわね」
エッ!?――と思って、幸恵が動く先を見ると、ロビーの窓際に、車椅子に座った男の姿があった。ハンチング帽をやや斜めにかぶった苦味走った顔。目には、黄色いフレームのメガネをかけ、口には無精ひげを蓄えている。
その口元が、聡史と目が合うと、人なつっこく緩んだ。目の縁に笑みを浮かべて、「どうも」というふうに会釈をするので、聡史も軽く会釈を返した。
幸恵は、車椅子の後ろに回ると、グリップを握って聡史のほうに押してきた。
「この前話した、夫の伸男です。こちら、海野さん」
幸恵に紹介されると、男は車椅子から身を乗り出すようにして、片手を伸ばしてきた。
その手を握った聡史は、男の握力の強さに驚いた。
「いつも、家内からおウワサを聞いております。有賀伸男です」
「奥さんには、いつもスクールでお世話になっております。海野聡史です」
「いよいよ決勝ですねェ。こないだの1回戦も拝見しましたが、海野さんのフォーメーション・プレー、実にお見事でした」
「いや、お恥ずかしい。つまらないミスして奥さんに叱られないよう、必死で足を動かしてるだけですよ」
「こいつ、口うるさいでしょう? 私も、しょっちゅう叱られてるんですよ」
「そうなんですか? しかし、私には、きわめて的確なアドバイスばかりですよ」
「ま、あまりうるさいようでしたら、無視しちゃってください。いちいち聞いてたら、キリがありませんから」
有賀伸男が幸恵を語る言葉の中には、長い時間を一緒に過ごした者だけが見せる余裕とも驕りとも言えるものが感じられた。その余裕が、聡史には、少し妬ましくもあった。
「きょうの相手、手強そうですね」
「ええ。何しろ、Uのペアですからね。しかし、一矢か二矢は報わないと、格好がつきませんから」
「でも、海野さん。ペア力ってものがありますから。ふたりのペア力は、私が見る限り、このスクールではピカ一ですよ。一矢とか二矢とか言わず、善戦を期待してます。こいつのためにも、ガンバってください」
「もォ、そんなにプレッシャーかけないでよ。海野さん、けっこう、ナイーブなんだから」
横から幸恵にたしなめられて、有賀伸男は、「あ、そうか」と頭をかいた。
その車椅子を、幸恵は、コートが見下ろせる位置まで押していく。
「あ、海野さん」と、伸男が振り向いて声をかけた。
「あのUペア、ひとりひとりの技量は、確かにふたりよりはかなり上だけど、フォーメーションはスキだらけですよ。サイドをついて崩したら、センターはガラ空きになります。そこを攻めれば、けっこういけるかも……ですよ」
親指を立てて、「ガンバれ」の合図を送ると、幸恵に何やら指示して、車椅子を止めさせた。
よし、ガンバってみるか。
聡史はそう口の中でつぶやいて、更衣室へ向かった。
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