ミセス・ボディショット〈12〉 闘い終えてハグされて…

3回戦は、デュースを繰り返してスコア20―20となった。
疲れはピーク。サーバーとなった聡史に幸恵がささやいた。
「このゲーム取ったら、お尻、触らせてあげる」――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈12〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んで、見事なフォーメーション・プレーを見せ、相手ペアを下した。至福の瞬間だった。なぜか、幸恵と組むと、聡史の足は燃えた。その数週間後、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。「オレと組まない」と誘いかけてくる大沢の誘いを断って、幸恵がパートナーに選んだのは、聡史だった。「サーブに不安がある」と言う聡史を、幸恵はプライベート・レッスンに誘い、さっさとコートを予約。それは、聡史のオフィスのすぐ近くにある都営のコートだった。練習が終わると、幸恵が「オフィスのシャワーを借りたい」と言い出した。トレーナーの下から湯上りの脚をのぞかせて立つ幸恵。ふたりの唇は、どちらからともなく近づき、ふたりは小さな罪を犯した。やがて大会の予選が始まった。1回戦の相手は、格上のUMペア。しかし、海野・有賀ペアは、絶妙のフォーメーション・プレーで、その強敵を下した――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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ペアで闘っていると、不思議な錯覚に陥る。
コートを走り回りながら、常にパートナーの存在を確かめようとする幸恵の姿が、寝ながらも手を探し求めてくる愛しい生きもののように見えてくる。
足元を相手の打球に抜かれるたびに、「お願い」と聡史を振り返る姿が、「助けて!」と救いを求める捕らわれのプリンセスのように見える。
そういうときの聡史の足は、補助エンジンを作動させたかのようなスピードで、すり抜けようとする球を追った。
聡史のラケットがその球を捉え、相手コートにエースとなって突き刺さると、幸恵は歓喜に顔を崩して、手とガットを打ち合わせた。
その瞬間、聡史は、ふたりはひとつになれたのだ――と感じることができた。
そういう喜びが、翌週の2回戦でも続いた。
3回戦の相手は、UM同士のペアだった。個々の打球の速さ・正確さでは、Mレベルの海野・有賀ペアの一枚上を行っている。しかし、フォーメーション・プレーの組み立て方、その呼吸が合っていることでは、聡史たちのほうがすぐれているようにも見えた。
ゲームは、熱戦となった。
6-6のデュースとなり、相手が7-6とアドバンテージを握ったが、すぐに幸恵のライジングが相手前衛のボディに決まって、7-7と追いついた。
次には、8-7と聡史たちがアドバンテージを握ったが、今度は、相手のボレーが幸恵のボディに決まって、8-8と追いつかれた。
決まりそうで決まらない。それからも、10回のデュースを繰り返し、なんとスコアは18-18にまで伸びた。
すでに、他のコートのゲームは終わり、対戦を終えた両隣のコートの対戦者とギャラリーが、ネットの外から聡史たちのゲームを見学していた。ジャッジを務めるコーチが「すごい試合」と声を上げ、ポイントが入るたびに、ネットの外から拍手が起こった。
聡史の足は、すでにパンパンになり、つりそうになっていた。
20-20からの41ポイント目。
サーバーは聡史だった。それまで順調に入っていたファーストが、サービスラインを大きくオーバーした。

いかん……と、聡史は思った。
あの日以来、払拭していたはずのWフォールトのいやな記憶が、脳の奥から這い出して来そうになる。
そのときだった。
幸恵がバックラインに戻ろうとする聡史に歩み寄り、ラケットを口元に当てながら、ささやいた。
「手が縮こまってるよ。あとでお尻さわらせてあげるから、腕を思い切り振って」
何かがメラッ……と、脳の奥で燃えた。
セカンドはおとなしくラケットに当てるだけにして、とにかくフォールトだけは避けよう――と思っていた聡史の考えが、変わった。
よし、外れてもいい。ファーストと同じように、思い切り打ってやる。
トス・アップした球が、頭上で止まっているように見えた。振り上げたラケットは、すでに、聡史の右肩の上で、インパクトのためのタメを作っている。膝に蓄えたバネを解放するのと同時に、肩の上でアイドリングしていた腕を、打点に向けて思い切り振り上げた。
ラケットを握るグリップに確かなヒット感が伝わってきて、スイート・スポットが気持ちのいい打球音を上げた。
聡史のラケットに弾かれた球は、ネットすれすれをかすめて、相手のアドバンテージ・エリア、そのサービスラインとサイドラインが交差する地点目がけて、糸を引くように伸びていく。
「ナイス・サーブ!」
コーチの声が飛んだ。
相手の後衛は、一歩も動けない。ノータッチ・エースだった。
幸恵が、ラケットを握った右手と握り拳を作った左手で、思い切りガッツ・ポーズを作り、その手をスコートに回して、尻を押さえた。聡史にはそれが、何かのサインに見えた。

ポイント21-20。アドバンテージ、海野・有賀ペア。
サーブ権が相手に移って、聡史は前衛へ、幸恵が後衛に下がった。
頼むぜ――と、聡史は胸の内で叫んだ。
リターンさえ返してくれれば、このゲームは取れる。聡史には、そんな予感があった。
相手のファーストはフォールトとなった。スピンのかかったセカンドは、幸恵のフォア・サイドへ逃げていく球となった。しかし、幸恵は、それをサイド・ラインぎりぎりで拾って、ショート・クロスにして返した。
うまい!
幸恵のショート・クロスは、相手コートのサイド・ラインを越えるか越えないかの距離感で飛んでいく。相手のサーバーが懸命にダッシュしてくる。
拾ったとしても、あれでは強打はできない。聡史は、ラインを締めることにした。目の端では、幸恵がセンターのケアに走る姿が見えた。
よし、これで、ふたりの間を抜かれる心配はない。
ダッシュしてきた相手サーバーは、何とか幸恵の球には追いついた。やっとラケットで拾い上げた球は、聡史のサイドへ、フラリ……とネットを越えてきた。聡史は、ラケットを左肩の上に構え、ネットを越えたばかりのところを思い切り、ボレーで叩いた。
「ナイス・ボレー!」
ネットの外のギャラリーから声がかかった。
万が一、拾われた場合に備えて、聡史はバックステップで後方をケアしようとしたが、その必要はなかった。
相手コートのセンターを抜けた聡史のボレーは、コート上でワンバウンドして、追いすがる相手前衛のラケットが追いつく前に、コートに落下した。
「やったぁ――ッ!」
幸恵の上げた声が、海野・有賀ペアの勝利を告げた。
両手を天井に向かって突き上げた幸恵が、そのまま聡史に抱きつき、聡史はその体を抱き上げた。
「ポイント22-20。ゲーム・バイ・海野・有賀ペア!」
コーチがコールして、1時間を超える長いゲームに決着がついた。聡史たちの3回戦突破が決まり、関東大会出場権も確定した。
「ナイス・ゲームでした。こんな長いゲーム、このスクール初まって以来ですよ」
握手したジャッジの声に、何かをやり遂げた感がみなぎる。
コートを後にする聡史たちに、ネットの外で見学していたギャラリーの拍手と、「ナイス・ゲーム」の声が飛んだ。その中には、小山コーチの姿もあった。大沢健一と児玉慶子の姿もあった。
聡史は、幸恵の背中をトンと叩いて、コートからクラブ・ハウスへと向かった。
聡史の耳に、幸恵が小声でささやいた。
「祝勝会しない、ふたりだけで?」
OKと親指を立てると、幸恵は、急ぎ足で更衣室へ消えた。
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