ミセス・ボディショット〈11〉 子犬のように

幸恵のボレーは、じゃれつくように聡史のボディに
飛んでくる。そこに聡史は、幸恵の愛を感じた。
やがて、ASK関東テニス大会の予選が始まった――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈11〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んで、見事なフォーメーション・プレーを見せ、相手ペアを下した。至福の瞬間だった。なぜか、幸恵と組むと、聡史の足は燃えた。その数週間後、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。「海野さんも、出ましょうよ」と声をかけてきた幸恵だったが、その幸恵の肩に手を回しながら「ペア組もうよ」と誘いかけてきたのは、大沢だった。「もう、決まってるから」と答える幸恵。その視線が捉えたのは、聡史だった。有賀・海野ペアは、なりゆきで誕生した。「サーブに不安が…」と言う聡史を、幸恵はプライベート・レッスンに誘い、さっさとコートを予約。それは、聡史のオフィスのすぐ近くにある都営のコートだった。「あなたのオフィスって、シャワーある?」。練習が終わると、幸恵が言い出した。コートのシャワーが、あまりきれいじゃないから、と言うのだった。聡史は、幸恵を、だれもいないオフィスに案内した。「海野さん」と呼びかけられて振り向くと、シャワーを終えた幸恵が、トレーナーの下から湯上りの脚をのぞかせて立っていた。その裾をゆっくりと引き上げる幸恵。「お約束のお尻、見せてあげる」というのだった。やがて、ふたりの唇は静かに近づき、ふたりは小さな罪を犯した――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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もしかしたら、自分たちのペアは文字通り、小山コーチの言った「愛のあるペア」になるのかもしれない――と、聡史は思った。
スクール・レッスンでも、聡史と有賀幸恵は、おたがいを意識して行動することが多くなった。
ウォーミング・アップのボレー&ボレーでは、目と目で合図を送り合ってペアを組んだ。幸恵のボレーは、以前にも増して、聡史のボディに飛んでくるようになった。
体にじゃれついてくる子犬のようにボディに飛んでくる幸恵のボレーを、聡史はていねいに、幸恵のフォアに返した。幸恵がもっともボディを打ちやすいであろうと思う位置に、可能な限りのきれいな球筋で――。
サーブ練習でも、ふたりは、隣同士に並んで、1回3球ずつの持ち球を打ち込んだ。聡史のサーブが正確にクロスに入るのを見て、幸恵は「調子いいね」と声をかけてきた。
聡史のサーブの精度が上がったのは、幸恵のアドバイスのおかげだったが、その成果は小山コーチの目にも留まったようだった。
「海野さん、サーブ、よくなりましたね。この状態がキープできたら、来季はUMですよ」
ホメ言葉としてはありがたかったし、UM昇格もうれしい話ではあったが、そうなると幸恵とは離れ離れになる。それが少し、寂しくはある――と思っていたら、練習後に幸恵が声をかけてきた。
「ね、コーチから何か言われた?」
「ウン。このままいけば、来季はUMだって」
「私も言われた」
「エッ!?」
「そろそろ、UMですねって」
「よかった」
「よかった……って?」
「いや、何でも……」
「もし、UMが決まったら、同じクラスでやりません?」
「よかった。実はね、UMに上がったら、有賀さんとは離れ離れになるなぁ……って思ってたから」
「自分ひとりだけ上がったら……って思ってたわけ?」
「ま、そうだね」
「ンもぉ。まったくノーテンキねェ。海野さんもそろそろ上でいいんじゃないですか――って、コーチに進言したの、私なんだからね」
「エッ!? エ――ッ!」
それだけ言うと、有賀幸恵はサッとスコートの裾を翻して、更衣室に消えていった。
その姿を呆気にとられて見送っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

「有賀人事ですねェ」
ニヤッと笑いながら立っていたのは、早川亮だった。
「人事……?」
「あ、会社じゃないから、人事じゃないか。あの子、けっこう、おせっかいなんですよ」
「どういうことです?」
「困ってる人の世話を焼きたがったり、人の向上心をサポートしたりするのが、好きらしいです」
「だからと言って……」
「小山コーチも、彼女には弱いから。あ、だからって、海野さんが温情で上に上がるとか、そういうことじゃないですよ。海野さんがUMレベルっていうのは、ボクも認めてますから。実はね、ボクも来季はUM行きらしいです」
「そうなんですか。そりゃ、よかった」
「つか、ここだけの話なんですけどね、いま、UMが定員不足なんですって。なのに、Mが増えすぎて、クラスが足りなくなってる。ま、そういうこともあって、今回は、MからUMに、ずいぶん昇格するらしいですよ」
「エーッ、そんなことで決めてるんですか、レベルを?」
「そりゃ、そうですよ、海野さん。スクールだって、営利事業だもん」
「ま、そう言われればそうだけど……」
小山コーチにささやかれた「UM昇格」のありがたみが、少し薄れたような気がした。
しかし、昇格しても幸恵と同じクラスでいられるというのは、聡史にとっては、わるいニュースではなかった。

やがて、スクール内での予選が始まった。
予選は、日曜日の午後、通常のレッスンが終わった後に、コート3面を使って行われる。
スクール内でダブルスにエントリーしたのは、全部で16組だった。試合は、トーナメント形式で行われ、上位2チームだけが、関東大会の出場権を得る。代表になるためには、3勝すればいい、という話だが、エントリーしたペアの中には、U同士のペアもいる。いきなり、そんな強敵と当たれば、1回戦で敗退――ということになってしまう。
運よく、海野・有賀ペアの1回戦の対戦相手は、M同士のペアだった。
ゲームは、タイ・ブレーク方式で行われた。
先に7ポイント以上を先取して、相手に2ポイント差をつけたほうの勝ちとなるが、タイ・プレークの場合は、2ポイントごとにサーブ権が入れ替わり、そのたびにサーバーを交代しなければならないことになっている。
聡史も、幸恵も、同じ回数、サーバーとしてサーブを打つことになる。これでは、Wフォールトなんてやっていられない。
サーブ練習やっておいてよかった――と、聡史は思った。
ゲームはいきなり、聡史のサービス・エースから始まり、終始、聡史たちのリードで進んだ。
ゲームのポイントは2か所あった。
ひとつは、カウント3-2から迎えた6ポイント目。サーバーは相手ペアに移っていた。
聡史が相手のバック・サイトに返したリターンを、相手のサーバーがバックハンドでダウン・ザ・ラインに打ち返してきた。あわや、パッシングになりそうだったリターンを幸恵が横っ飛びでボレーした。「ナイス・キャッチ!」の声が飛んだが、相手の前衛は、センターをケアしていた。もし、前衛が幸恵のボレーを拾えば、ふたりのど真ん中をボレーで抜かれてしまう。
咄嗟の判断で、聡史は、センターにダッシュしながらネットに詰めた。
案の定、幸恵のボレーをキャッチした相手の前衛は、それをボレーでセンターに返してきた。ダッシュが早かったぶん、聡史の足は、その球に追いついた。
見ると、センターに詰めた相手前衛のフォア・サイドはガラ空きになっている。
聡史は、足元でワンバウンドした相手のボレーを、ハーフボレーでドロップ気味に、相手コートのサイドラインぎりぎりに落とした。
相手ペアは一歩も動けなかった。
幸恵が手のひらでガットを叩いて拍手し、握手を求めてきた。
もうひとつのポイントは、5-3から迎えた9ポイント目。サーバーは、聡史だった。
サービスダッシュした聡史はネットについて、海野・有賀ペアはWボレーの布陣を敷いていた。その何ラリーか目。相手の後衛は、幸恵がそのセンターを抜こうとして打ったボレーをロブで返してきた。
聡史のいるデュース・エリア側のサイドラインぎりぎりにフラフラと上がったロブ。
ボレーで返すか、いったん落として、ストロークで返すか?――一瞬、迷った聡史だったが、あれをワンバウンドさせてしまったのでは、かなり深い位置でストロークすることになる。その間に相手は守備の隊形を整えるだろう。だいいち、そんな深い位置からのストロークでは、ヘタしたら、相手にチャンス・ボールを返してしまうことになる。
聡史は、ラケットをバックハンドのボレーの位置に構えたまま、必死でボールを追った。なんとか追いつきそうには見える。しかし、どんなに腕を伸ばしても、球はその上を飛び越えていきそうにも見えた。
一か八かの決断だった。
ラケットをハイボレーの位置に構えたまま、聡史は思い切り足でコートを蹴ってジャンプした。
よし、余裕はある。
バックハンドのハイボレーだが、それをスマッシュのように強めに振り抜いた。
いいヒット感だった。聡史のガットに弾かれた球は、相手コートの前衛の足元を抜き、ふたりのセンターを抜くエースとなって、バックラインを越えていった。
幸恵がラケットを握った手と拳を握りしめた左手でガッツボースを作り、それから握手を求めてきた。
結局、そのまま、ゲームは7-3で聡史たちの勝利になった。
相手チームとの握手を終えると、幸恵は汗まみれの手でギュッと聡史の手を握りしめてきた。
その握手の時間が、少し長く感じられた。
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