ミセス・ボディショット〈10〉 そのキスの罪の重さ

トレーナーの下から、ピンクに染まった脚がのぞいていた。
幸恵はその裾をゆっくり引き上げた。お約束の「尻見せ」。
やがてふたりの唇は近づき、小さな罪を犯した――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈10〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んで、見事なフォーメーション・プレーを見せ、相手ペアを下した。至福の瞬間だった。なぜか、幸恵と組むと、聡史の足は燃えた。その数週間後、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。「海野さんも、出ましょうよ」と声をかけてきた幸恵だったが、その幸恵の肩に手を回しながら「ペア組もうよ」と誘いかけてきたのは、大沢だった。「もう、決まってるから」と答える幸恵。その視線が捉えたのは、聡史だった。有賀・海野ペアは、なりゆきで誕生した。「サーブに不安が…」と言う聡史を、幸恵はプライベート・レッスンに誘い、さっさとコートを予約。それは、聡史のオフィスのすぐ近くにある都営のコートだった。「あなたのオフィスって、シャワーある?」。練習が終わると、幸恵が言い出した。コートのシャワーが、あまりきれいじゃないから、と言うのだった。聡史は、幸恵を、だれもいないオフィスに案内した――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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「海野さん」
声をかけられて振り向くと、有賀幸恵が上半身にトレーナーを着込んだだけの姿で立っていた。少し長めのトレーナーで、ももの半分ぐらいまでが隠れている。しかし、その下には、何も穿いてない。
トレーナーの下からは、シャワーでほんのりピンク色に染まった生脚が、スラリと伸びていた。
「風邪ひくよ、そんな格好じゃ」
「一瞬だからね」
「エッ!!」
何が一瞬なのかもわからないうちに、幸恵はクルリと後ろ向きになり、トレーナーの裾をゆっくり持ち上げた。
淡いサーモンピンクの下着に包まれた、形のいいヒップが、聡史の目に飛び込んできた。
張りのある2つの筋肉の山が、光沢のある下着の生地からあふれそうになっている。 どこにもたるみのない、美しい肉の塊。その塊の間に、薄っすら透けて見える蠱惑の窪み。
きれいだね――と言おうとした瞬間、トレーナーはカーテンのように下ろされた。
「つまらないものですが、きょうのお礼でした」
「高くついたね」
「もっとはずみたいんだけど、これでも、貞操は守ってるつもりだから」
聡史が見ている前で、幸恵はパンツに足を通して、かもしかのようなピンクの脚は隠されてしまった。
ペーパーフィルターに注いだ湯から、ブルーマウンテンの香ばしい香りが立ち上っている。
何度か湯を注ぎ足して2人分のコーヒーができ上がると、聡史はそれをカップに注ぎ、幸恵の前に差し出した。

それは、危うくも、しかし、幸せな時間だった。いつかのスクールのラリー練習で、完璧とも思えるフォーメーション・プレーを成功させたときの、あの至福の時間が、再び、戻ってきたような感覚だった。
目の前で湯上りの肌の匂いを漂わせている美しいかもしかは、いまだったら、自分の腕の中に抱きしめることだってできるかもしれない。
しかし、聡史はそうはしなかった。
それで、二度と会えなくなる関係にしてしまうよりも、もどかしいながらも持続する関係を、聡史は望んだ。
「一度も、結婚してないのよね」
聡史のいれたコーヒーを「おいしいッ!」とのどに流し込みながら、幸恵が顔をのぞき込んできた。
「おかげさまで」
「おかげさま……って、私、何もしてないけど」
「何もしてないおかげさま」
「何、それ? ね、する気もないの?」
「したいという気になれる人がいたら、したいと思うでしょうね」
「いないんだ、いま?」
「いるけど、いない……」
「エーッ、わけわかんないなぁ。もしかして、死んじゃった……とか?」
「ボクは、そこまで義理堅くないですよ」
「じゃ、理想が高すぎる……とか?」
「理想なんて持ってないし……」
「それじゃあ……」
「ひとつだけ、ヒント。好きになっても、好きだと思っていることしかできない関係もあるでしょ?」
「ワケあり……ってこと?」
「ま、ワケって言えば、ワケだねェ……」
そう言いながら、幸恵の目を見たが、幸恵はその「ワケ」が自分にある――などとは、思ってもいないように見えた。
その幸恵の口から、想定外の言葉が飛び出して、謙介はコーヒーをむせそうになった。
「ね、海野さん、児玉さんとかってどォ?」
「それってさ……」
「何?」
「ボクにお尻まで見せた人が言う言葉?」
「罪ほろぼし……だったりして」
「罪は、滅ぼしてはいけません」
「じゃ、どうしろって?」
「せめて、背負ってほしい」
「いいんですか、背負っても? ずっと、背負い続けるかもしれないよ」
「どうせなら、もう少し、重くしておこうか?」
言いながら、聡史は幸恵の顔に自分の顔を近づけた。
見開かれた幸恵の瞳が、ためらいの瞬きを繰り返した。

そのキスは、ふたりが背負う罪を「微罪」から「重罪」に変えてしまうかもしれない。
幸恵の唇は、聡史の皮膚の温度を感じると、一瞬、その罪から逃れようとした。
聡史は、かすかに開かれた唇からもらされる幸恵の息の温度を、追尾した。
翼を右に左に傾けて、聡史の熱戦追尾ミサイルを避けようとする幸恵の唇。しかし、聡史の唇が、みかんの袋のように軟らかい幸恵の唇を捕捉したとたん、幸恵は、自分から、接触の面積を増やそうと顔を傾け、聡史の胸に力のない手を預けてきた。
いけない……と退く力は、幸恵の手からも、唇からも、徐々に失われていった。
もっと懲らしめて……というふうに身を寄せ、唇を開いて聡史の舌を受け入れる幸恵を、聡史は自分のものにしたい――と願った。
背中に当てた手で幸恵の体を抱き寄せて、その手を背中から胸元へ滑らせた。
聡史の手が、トレーナーの下で大きく波打つ幸恵の胸の弾力を捕えたときだった。
「ダメ……」
幸恵が、胸に当てた手で聡史の体を押し返した。
「これ以上すると、終身刑になっちゃう……」
何度も、小さく首を振る幸恵のセミロングが、サーブを打つときのように、顔の周りをスウィングした。
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