ミセス・ボディショット〈9〉 ふたりだけのコート

オフィス近くにコートを借りての、ふたりだけのラリー練習。
右に左に走り回る幸恵の姿を、聡史は「美しい」と思った。
その幸恵が「シャワーを借りたい」と言い出して――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈9〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んだ。その幸恵の頭の上を深いロブが越えていく。「海野さ~ん、お願~い!」。幸恵の声に聡史の足が燃えた。懸命にキャッチしたボールをクロスにロブで返し、相手がやっと拾って返した緩い球を幸恵がボレーで相手コートに叩きこんだ。至福の瞬間だった。しかし、次のペアとの対戦で、聡史は、痛恨の2連続Wフォールト。何もしないままに、ゲームは終わってしまった。「ドンマイ」と声をかけた幸恵だったが、その顔は怒っているように見えた。その夜、聡史は夢を見た。幸恵が男たち数人にコートから連れ去られ、ブッシュの中で凌辱される夢だった。これも、Wフォールトの報いか…。翌週、練習を終えた聡史がロビーでコーヒーを飲んでいると、幸恵が声をかけてきた。オフ会への誘いだった。小山コーチが卒業するので、そのお祝いの会だという。出席した聡史は、幹事としてみんなの世話を焼く幸恵の姿にホレ直すが、その姿をカメラに収め続ける男がいた。大沢健一。大沢はその写真を「おかず」に使うと言う。それを諌める聡史。幸恵が、「ありがとう」というように聡史に頭を下げた。翌週、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。「海野さんも、出ましょうよ」と声をかけてきた幸恵だったが、その幸恵の肩に手を回しながら「ペア組もうよ」と誘いかけてきたのは、大沢だった。「もう、決まってるから」と答える幸恵が視線を送ったのは、聡史。有賀・海野ペアは、なりゆきで誕生した。「サーブに不安が…」と言う聡史に幸恵が提案したのは、プライベート・レッスンだった――
【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。
「オムニ・コート」というのは、「砂入り人工芝」のコートのことで、スクールのハード・コートに比べると、いくぶん、ひざや腰への負担は軽くなる。その代わり、少し滑る。球を追って走り、打とうと思って踏ん張ったときに、その軸足がズリッと滑る感じがする。
聡史の仕事場からだと、歩いても行けるその都営のコートには、全部で4面のオムニ・コートが並んでいた。
有賀幸恵は、いつものスコートではなく、スウェットのパンツとトレーナー姿でコートに現れた。秋風の吹き始めた屋外のコートでは、スコートでは少し脚が寒いのかもしれない。パンツ姿になると、幸恵の脚は、スラリと長く見える。それも、聡史には魅力的に見えた。
滑る足元を気にしながら、ボレー&ボレーで体をほぐし、それから左右のコートに分かれて、バスケットに一杯のボールが空になるまでサーブを打ち、そのボールを拾い集めては、また、サーブを打った。
しかし、聡史のサーブは、ファーストがなかなか決まらない。たいていは、オーバーしてしまう。それを見ていた幸恵が、「海野さん」と声をかけた。
「気のせいかもしれないけど、ファーストのとき、ラケット面がちょっと開いてる気がする。手首を少し、内側に曲げてみたら?」
幸恵が「気のせいかも」と指摘したことは、正しかった。
ひじが先に出てしまうために、どうしてもラケット面が開き気味になって、ボールをこする感じになっていた。それを矯正するために、手首を内側に曲げるように意識して振り下ろすと、面白いように鋭い打球が相手コートに突き刺さるようになった。
「ナイス・サーブ!」
横で見ていた幸恵が歓声を上げた。
「すごーい、海野さん。そのサーブだったら、絶対、エースが取れるわよ」
「有賀さん、ナイス・コーチですよ。よく、ボクの欠陥を見抜きましたね」
「こないだ、ちょっと悔しかったから……」
やっぱり、Wフォールトに怒ってたんだ――と思ったが、おかげで、サーブの精度は格段に上がった。

サーブが7~8割の確率で、相手コートのサイドラインぎりぎりやセンターに飛んでいくようになると、聡史はサーブ練習を終え、「軽くラリーしようか」と幸恵に声をかけた。
「ボディも打ってくださいね」
「いいの?」
「有賀さんのボディ、けっこう、好物だから」
「ウソォーッ! じゃ、打っちゃうわよ。なんかね、海野さんって、ボディに打ちたくなるような人なの」
「エーッ、どうして?」
「自分でもわからないけど……」
青く晴れ上がった空の下でのラリーは、インドアとは比べものにならないくらい、気持ちがいい。スクールでのラリー練習は、ダブルスでのフォーメーションだが、シングルスでのラリーだと、思い切り動き回れる。こちらも、気持ちがいい。30分も動き回っていると、全身から汗が噴き出してくる。
結局、幸恵のボディ・ショットは、一本も飛んで来なかった。というより、ボディを狙って打つ余裕など、なかったに違いない。
ふたりきりでのラリーは、スクールでの練習に比べると、走る距離が段違いに多い。
15分の休憩を挟んで、再び30分のラリー。
全部で2時間のコート練習を終える頃には、ふたりとも、脚がパンパンに張っていた。
「ボディ、打たなかったね」
「そんな余裕、なかったわ。一生懸命、打とうと思ったんだけど、海野さんのストローク、速いし……」
「でも、気持ちよかったね。有賀さんの走り回る姿も美しかったし……」
「ホント……?」
「それにね、きょう、初めて気がついたんだけど……」
「何?」
「有賀さんのお尻、けっこうかわいい」
「何、それ?」
「いつもスコートだからわからなかったけど、きょうはパンツだったから。かわいくて形のいいお尻だなぁ、って思いましたよ」
「見せてあげましょうか?」
「エッ!?」
「ウソですよォ。あ、そうだ」
「何?」
「海野さんのオフィス、シャワーあります?」
「あるけど……」
「あのね、ここのシャワールーム、あんまりきれいじゃないの。もし、差し支えなかったら……」
「あ、いいですよ」
「じゃ、借りようかな。でも、見せないよ」
「何を?」
「お尻」
「そんなの……黙ってのぞくから大丈夫」
「エーッ!?」
「ちょっとドキドキする」と言う幸恵を、コートから歩いて10分ほどのところにあるワンルームの仕事場に案内した。道々、聡史の頭には、有賀幸恵の白いヒップが浮かんでは消えた。

聡史の仕事場は、16畳ほどのLDKに、バスルームがついただけのワンルームになっている。部屋の中には、編集ソフトを積み込んだマックが3台に、プリンターを兼ねた複合機が1台、打ち合わせ用のテーブルが1脚。あとは、壁一面を書棚が埋めて、そこに、書類や資料や書籍類などがギュウギュウに押し込まれている。
かつてはそこに2人のスタッフがいて、いつもマックのキーを叩く音が響いていたが、いまでは、稼働しているのは、聡史が使っている1台だけになってしまった。ほんとは、仕事道具も自宅に運び込んで事務所を閉めてもいいのだが、そうなると、文字通り、都落ちになってしまう。もしかしたら、そのままフェイド・アウトしてしまうことになるんじゃないか……という不安もあって、いまだに事務所だけは、なんとか維持している。
そんな聡史の「夢の跡」にやって来て、幸恵は、「ヘーッ」と声を上げた。
「ここが、海野さんの仕事場?」
「いまは、ボクひとりになっちゃったけど」
「事務の女の子とかもいないの?」
「必要ないんだよね。事務が必要なほど、煩雑な仕事じゃないし」
「でも、経理とかあるでしょ?」
「そんなのは、1週間に一度、パソコンにデータを打ち込んでおけば十分。それにね……」
「それに……?」
「そんな女の子がいると、変な気、起こすかもしれないでしょ?」
「フーン、手が早いんだ、海野さん?」
「いや、そういうわけじゃないけど、万が一、職場でそんなややこしい人間関係作っちゃうと、面倒だからね」
「そうか。お茶をいれてくれる女の子もいないんだぁ……」
「お茶ぐらいだったら、自分でいれるし。そうだ、コーヒー飲む? いま、いれるから」
「あ、じゃ……先にシャワー浴びちゃう。ちょっと貸してね」
バスルームに案内すると、幸恵は、「のぞいちゃダメよ」とドアを閉めた。
やがて、バスルームから、幸恵の体を流れ落ちるシャワーの音が聞こえてきた。聡史は、その姿をそっと頭の片隅に思い浮かべた。
⇒続きを読む


2012年12月リリース
スマホ用オリジナル書き下ろし! App Storeで好評販売中!
iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
★iPhone、iPadでご覧になりたい方は、こちら(iTuneダウンロードページ)から

2012年11月リリース
好評! App Storeで上位ランキング中!
iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
★iPhone、iPadでご覧になりたい方は、こちら(iTuneダウンロードページ)から

管理人はいつも、下記3つの要素を満たせるようにと、脳みそに汗をかきながら記事をしたためています。
そして、みなさんが押してくださる感想投票に喜んだり、反省したりしながら、日々の構想を練っています。
どうぞ、正直な、しかしちょっぴり愛情のこもったポチを、よろしくお願いいたします。
そして、みなさんが押してくださる感想投票に喜んだり、反省したりしながら、日々の構想を練っています。
どうぞ、正直な、しかしちょっぴり愛情のこもったポチを、よろしくお願いいたします。



この小説の目次に戻る トップメニューに戻る
- 関連記事
-
- ミセス・ボディショット〈10〉 そのキスの罪の重さ (2013/01/30)
- ミセス・ボディショット〈9〉 ふたりだけのコート (2013/01/26)
- ミセス・ボディショット〈8〉 ペア誕生 (2013/01/21)