ミセス・ボディショット〈8〉 ペア誕生

スクール合同のテニス大会。「オレとペア組まない?」と
誘いかけてくる大沢に、「もう決まってるから」と幸恵。
その視線が聡史を捕えた。そうしてペアが誕生した――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈8〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んだ。その幸恵の頭の上を深いロブが越えていく。「海野さ~ん、お願~い!」。幸恵の声に聡史の足が燃えた。懸命にキャッチしたボールをクロスにロブで返し、相手がやっと拾って返した緩い球を幸恵がボレーで相手コートに叩きこんだ。至福の瞬間だった。しかし、次のペアとの対戦で、聡史は、痛恨の2連続Wフォールト。何もしないままに、ゲームは終わってしまった。「ドンマイ」と声をかけた幸恵だったが、その顔は怒っているように見えた。その夜、聡史は夢を見た。幸恵が男たち数人にコートから連れ去られ、ブッシュの中で凌辱される夢だった。これも、Wフォールトの報いか…。翌週、練習を終えた聡史がロビーでコーヒーを飲んでいると、幸恵が声をかけてきた。オフ会への誘いだった。小山コーチが卒業するので、そのお祝いの会だという。出席した聡史は、幹事としてみんなの世話を焼く幸恵の姿にホレ直すが、その姿をカメラに収め続ける男がいた。大沢健一。大沢はその写真を「おかず」に使うと言う。それを諌める聡史。幸恵が、「ありがとう」というように聡史に頭を下げた。翌週、「関東地区ASK杯争奪テニス大会」のエントリー受付が発表された。聡史が迷っていると、「海野さんは、出ないんですか?」と、幸恵が声をかけてきた――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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着替えをすませてロビーでコーヒーを飲んでいるところへ、有賀幸恵が児玉慶子と一緒にやってきた。
「ねェ、出ましょうよ、テニス大会」
席に着くなり、幸恵が切り出した。横で慶子が「そうよ、そうよ」というふうにうなずいている。
「私たち、ふたりとも出たいんだけど、まだ、ペアが作れてなくて……。児玉ちゃんも探してるんだよね?」
うなずきながら、慶子が聡史の目を見る。聡史はその視線をスルーした。
「ふたりでペア組む気はないんですか?」
「エッ!? 女子でってこと?」
「それもありなんでしょ?」
「ありなんだけど、女子同士のペアじゃ、やっぱり弱いし……」
「勝つ気、満々なんですね?」
「そりゃ、そうですよ。それにね……」
幸恵は慶子の顔を見て、何やら含みがありそうな笑みを浮かべた。
「やっぱり、私たち、ミックスのほうが好きだし……。海野さんは?」
「ま、どうせなら、美しい女性と組んだほうが、気合は入るでしょうしね」
「エッ、美人?」
ふたりが顔を見合わせるので、聡史はあわてて言葉を訂正した。
「女性と組んだほうが美しい、ということですよ」
「よかったね」と、幸恵が慶子の肩に肩をぶつけた。その肩を慶子が押し返した。
「もし、ペアを組むとしたら……」
そう言いかけた有賀幸恵の肩を、後ろからポンと叩いた男がいた。
大沢健一。幸恵の写真を「おかずにしていいか?」と尋ねたあの男だった。

肩に置いた手で幸恵の肩を揉みながら、大沢は「有賀ちゃ~ん」と気持ちのわるい声を出した。
「もう、ペア、決まった? オレと組まない? ビューティフルなペアになるぜ」
その手が肩から二の腕に回されようとするのを、幸恵は手で払いのけながら言った。
「わるいけど、もう決めてあるから……」
言いながら聡史の目を見るので、聡史は咄嗟にうなずいて見せた。
「なんだ、そうなのか。手早いですね、海野さん」
「じゃなくて、私からお願いしたんです」
「ヘーッ、そうなんだ。じゃ、オレ、児玉っちでいいや。どォ、オレとペア組まない?」
「……でいいや?」と、児玉慶子が大沢健一を睨みつけた。
「あ、いや。児玉ちゃんがいい。どォ、どォ?」
結局、慶子は大沢の執拗な誘いに折れて、ペアを了承した。ハードヒットの大沢健一とスピン系のくせ球が持ち味の児玉慶子。それはそれで、強力なペアになるだろう――と聡史は想像した。
「ごめんなさい、海野さん。勝手にペアにしちゃって」
大沢が席を離れると、幸恵がペコンと頭を下げた。
「どうしても、あの人とはペアを組みたくなかったんで、咄嗟にウソついちゃった。メイワクだったら、解消していいですよ」
「いや。ボクでよければ、喜んで。ただね……」
「ただ……? 何ですか?」
「ちょっと、こないだのダブル・フォールトがトラウマになってて……」
「じゃ、練習しましょ。私も、少し、サーブ練習したいから」
ふたりの話を、児玉慶子がうらめしそうに眺めていた。
「ごめんね、児玉ちゃん。私のせいで、大沢さんを押し付けたみたいになっちゃって」
「気にしないで。私は、ゲームをしたいだけだから、ペアなんて、ほんとはだれとでもよかったの」
たぶん、それはウソだろう。
児玉さんは、けっこういい人なのかもしれない、と聡史は思った。

その日のうちに、幸恵は、「有賀・海野ペア」のエントリー手続きをすませた。
ミックス・ダブルスへのエントリーは、聡史たちで10組目だった。その中から2組だけが、「関東大会」の本選に出場できる。まずは、スクール内での予選を勝ち抜くことが先決だ。
有賀幸恵を失望させるわけにはいかない。そのエントリーは、聡史にとって、それなりにストレスのかかる決断だった。
手続きが終わると、幸恵は携帯で、公営テニスコートの空き時間を検索し始めた。
練習は、スクールのコートをレンタルしてやってもいいのだが、時間が限られるし、だいいちレンタル料が高い。
「ダメだぁ。どこも土日はいっぱいだし、平日も、夜間はふさがってる。海野さん、平日の昼間で、時間とれる日、ないですか?」
「ボクはフリーだから、いつでも予定入れられますよ。ものすごくタイトな締め切りを抱えてるときは別ですけど……」
「じゃ、いまは?」
「比較的、スケジュール緩いです。ほんとは、それじゃいけないんだけど……。有賀さんのほうは?」
「私は、病院の受付やってるんですけど、シフトを動かしてもらえば何とかなるので、エーと、来週の水曜日とか木曜日の午前中なんてどうです?」
「いいですよ。でも、ひとつだけ条件があるんだけど……」
「何です?」
「練習のあと、ボクとランチを食べてくれること」
「そんなの、練習しなくてもOKですよ。あ、ここ、どうです? 都営なんだけど、オムニ・コートですって」
「オムニ? それいいなぁ。あれ!? ここ、ボクの仕事場のすぐ近くだ」
「ホント? ヘーッ、こんなところにオフィスがあるんですか? それ、海野さんひとりのオフィスなんですか?」
「前は、スタッフもいたんだけどね。不況で、もう、人を雇ってる余裕、なくなっちゃって」
「フーン。じゃ、海野さんの仕事場、のぞいちゃおうかな?」
「いいんですか、そんなことして?」
「そんなこと……って?」
「だって、ご主人が……」
「ああ、あの人は、そんなこと気にする人じゃないから。もし、気にしてたら、私がひとりでスクールに行くことだって、快くは思わないでしょ?」
そんなものなのか――と思った。
夫婦も何年か続くうちに、相手の行動にいちいち興味を抱いたりしなくなるものなのかもしれない。
しかし、確か、有賀幸恵の夫は――。
頭の片隅に浮かんだ疑念は、胸の奥にしまい込んだ。
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