ミセス・ボディショット〈7〉 ミックス・ダブルス

「ASK杯争奪テニス大会」が開かれることになった。
「海野さんは、出ないんですか?」
声をかけてきたのは、有賀幸恵だった――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈7〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んだ。その幸恵の頭の上を深いロブが越えていく。「海野さ~ん、お願~い!」。幸恵の声に聡史の足が燃えた。懸命にキャッチしたボールをクロスにロブで返し、相手がやっと拾って返した緩い球を幸恵がボレーで相手コートに叩きこんだ。至福の瞬間だった。しかし、次のペアとの対戦で、聡史は、痛恨の2連続Wフォールト。何もしないままに、ゲームは終わってしまった。「ドンマイ」と声をかけた幸恵だったが、その顔は怒っているように見えた。その夜、聡史は夢を見た。幸恵が男たち数人にコートから連れ去られ、ブッシュの中で凌辱される夢だった。これも、Wフォールトの報いか…。翌週、練習を終えた聡史がロビーでコーヒーを飲んでいると、幸恵が声をかけてきた。オフ会への誘いだった。小山コーチが卒業するので、そのお祝いの会だという。出席した聡史は、幹事としてみんなの世話を焼く幸恵の姿にホレ直すが、その姿をカメラに収め続ける男がいた。大沢健一。大沢はその写真を「おかず」に使うと言う。それを諌める聡史。幸恵が、「ありがとう」というように聡史に頭を下げた――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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「コーチ、次、行きましょうよ」
一次会の居酒屋を出ると、児玉慶子が小山コーチの腕にぶら下がるような形になって、甘えた声を出した。
「有賀ちゃんも行くでしょ?」
「でも……私は、ダンナの面倒、看なくちゃいけないし……」
「いいじゃない。一日ぐらいほっといても」
「エーッ、でも……」
そうだ、有賀幸恵のご主人は、体を壊してテニスを休んでいるという話だった――と、聡史は思い出した。
それじゃ、ムリに誘うのもわるいよな。
聡史がそう思いながら見ていると、「おーっ、有賀ちゃん」と、後から出てきた大沢健一が、幸恵の肩に手を回した。
「行こうぜ、行こうぜ。たまにはパーッとさ」
「だから、私は……」
「じゃ、1時間だけ。な、な。せっかくの小山コーチの卒業祝いなんだからさぁ」
「1時間だけ」と言われて、幸恵はチラと、聡史の顔を見た。
その顔が、「あなたはどうするの?」と言っているように見えたが、聡史には帰って片づけなければいけない仕事が残っていた。
ボクは帰って、ちょっと仕事を――と、手振りだけで説明すると、幸恵はコクリ……とうなずいた。
結局、2次会に向かったのは、小山コーチと大沢、それに児玉慶子と有賀幸恵の4人だけだった。
「あのメンツだと、どうせカラオケだな。あんまり好きじゃないんですよね、カラオケって」
早川亮は、そう言って4人とは手を振って別れ、黒木敦子も、「子どもの弁当の準備があるから」と、ふたりしてメトロの駅に向かった。
聡史はしばらく、その場に立ち止まって、街中へ消えていく4人の姿を見送った。
児玉慶子は、コーチの腕にすがりついたまま、ややフラつく足でどんどん先へ進んでいく。気が進まないように見える幸恵の体を、大沢が抱き寄せるようにして、後についていく。
一瞬、聡史の脳には、あの夢の映像がよみがえった。
スコート姿のまま、5人の男たちに担がれてブッシュの中に連れ去られる有賀幸恵。男たちにくさむらの中に押し倒され、次々に衣服を剥ぎ取られていく幸恵の姿を、ニヤニヤしながら見下ろしていた男。
やっぱり、あのときの男は大沢健一だった――と聡史は確信し、確信すると同時に、胸の中に黒い雲が湧き起こった。

「エーッと、きょうは、ちょっとお知らせがあります」
次の土曜日。レッスンが終わると、小山コーチがみんなにチラシを配った。
A4サイズのチラシに印刷してあったのは、「ASK杯争奪関東テニス大会」の告知だった。
「ASK」が運営する関東地区のテニス・スクール4教室のスクール生を対象に、男女シングルス・ダブルス(ミックス含む)の3種目でチャンピオンシップを争うというイベントで、各スクールで予選を勝ち抜いた各種目2チームずつが、本大会に出場できる。優勝者には、1年分のレッスン料が無料、準優勝者には半年分が無料、第3位には1か月分が無料という特典が与えられることになっていた。
「エーッと、このクラスでは、確か2年前に、有賀さんがダブルスで5位を取ったのが最高ですね。そのときは、UMのご主人とペアを組まれたんですよね。よかったら、またぜひ、チャレンジしてくださいね。エントリーの締め切りは、今月いっぱいですから、みなさんふるってご参加ください」
ちょっと勝手がわからない。
「あの……ペアは、クラスに関係なく組んでいいんですか?」
聡史が質問すると、すぐに早川に冷やかされた。
「海野さん、もう、他のクラスの女の子に目をつけたんですか?」
「いやいや、他のクラスなんか知らないし……。あ、それとコーチ、この大会はレベル関係ないんですか?」
「ないんですよ。一応、参加資格はM以上ってことになってるんですが、MだからUMやUに勝てないってわけじゃないんです。去年も、UMがUを破って優勝した種目もありました。特に、ダブルスの場合は、チームプレーなんでね、ペアの息が合ってれば、UMのペアやUのペアに勝つことも十分に考えられます。どうですか、海野さんも、だれかとペアを組んでみたら?」
「はぁ、いいですねェ。しかし……」
本格的にゲームがしてみたい――という気はあった。
しかし、ゲームにチャレンジするためには、どうしてもクリアしなければならない壁がある。
サーブの精度。これを上げないことには、いざゲームとなっても、ダブル・フォールトを連発することになるだろう。それでは、ペアを組んだ相手に迷惑をかけてしまうことになる。
いまの状態じゃムリだな……。そう思いながら、コートを出ようとすると、後ろから声をかけられた。
有賀幸恵だった。

「海野さんは、出ないんですか?」
「出たいは出たいんだけどね……」
「コーチ、言ってましたよ」
「エッ、何を……ですか?」
「海野さんのフォーメーションのセンスはすごいって。海野さんって、いつも、パートナーの動きを頭に入れて自分の動き方を決めてるし、次に起こるプレーを予測する能力が人並み外れてるんですって」
「そうかなぁ……」
「愛のあるテニスだって言ってましたよ、コーチが」
「意味わかんないし……」
「私も感じましたよ。この人とプレーしてると、なんだか、守られてる気がする――って」
「相手によるんじゃないですか」
「じゃ、あのときは、相手がよかった……のかな?」
そう言いながら、幸恵が顔をのぞき込むので、聡史は「たぶん」と答えた。
「あの……」
更衣室に向かおうとする聡史に、幸恵が声をかけた。
「すぐには帰らないでしょ?」
意味はわからなかったが、聡史は黙ってうなずいた。
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