ミセス・ボディショット〈5〉 連れ去られるスコート

ラリー練習で幸恵とペアを組んだ聡史は、
痛恨の2連続Wフォールトで、幸恵の期待を裏切った。
その夜、幸恵の体は、男たちに連れ去られて――
マリアたちへ 第16話
ミセス・ボディショット〈5〉
前回までのあらすじ 40歳でテニスを始めた海野聡史は、レッスンのラリー練習で、有賀幸恵のボディショットに下腹部を直撃される。幸恵はクラスに4人だけいる女子の中でも、ちょっと目を引く美人だった。クラスの早川亮の話だと、幸恵には夫がいて、テニスもふたりで始めたのだが、その夫は体を壊して、いまは休んでいるという。ある日のレッスン前、ロビーでコーヒーを飲んでいると、「早いですね」と幸恵が声をかけてきた。聡史が独身だと知ると、幸恵は、「独身だって」と、横にいる児玉慶子の腕をつついた。その日のラリー練習で、聡史は幸恵とペアを組んだ。その幸恵の頭の上を深いロブが越えていく。「海野さ~ん、お願~い!」。幸恵の声に聡史の足が燃えた。懸命にキャッチしたボールをクロスにロブで返し、相手がやっと拾って返した緩い球を幸恵がボレーで相手コートに叩きこんだ。至福の瞬間だった。しかし、次のペアとの対戦で、聡史は、痛恨の2連続Wフォールト。何もしないままに、ゲームは終わってしまった。「ドンマイ」と声をかけた幸恵だったが、その顔は怒っているように見えた――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

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「海野さ~ん、海野さ~ん」
風に乗って、名前を呼ぶ声が聞こえた。
山間に開けた、猫の額ほどの盆地。そこを整地してアンツーカーを敷き詰め、ブッシュの中に一面だけのテニス・コートが作られている。声は、そのコートのほうから聞こえてきた。
声に、聞き覚えがあった。
「海野さ~ん、お願~い、助けてェ~!」
間違いない。有賀幸恵の声だ!
聡史は、斜面の上に作られたクラブ・ハウス兼ホテルに戻ろうと、石段の道を上っているところだった。声に振り返ると、elleseのウエアを着た有賀幸恵が、4、5人の男たちに体を担がれて、コートからブッシュのほうへ連れ去られようとしているところだった。
何とか逃れようと、幸恵は足をバタバタとさせ、手で男たちの体を押しのけようとするが、男たちはその両手・両足をもぎ取るようにしてコートの脇のブッシュの中へ入っていく。もがく幸恵のスコートは、スカート部分がめくれ上がり、ショーツがむき出しになっている。
「オーイ、止めろ! 止めるんだぁ――ッ!」
聡史はありったけの声で叫んだが、いくら声を振り絞っても、その声は男たちのところまで届かない。
やがて男たちの姿は、ブッシュの中に消えた。
男たちの胸の高さほどまで雑草が生い茂ったブッシュ。2人の男の胸から上だけが、見えていた。残りの男たちの姿も、幸恵の姿も、雑草の中に埋もれて見えない。
しかし、そこで何が行われているのかだけは、想像できた。
雑草の陰から、白い、ふわりとしたものが放り上げられ、それは背の高い雑草の茎に引っかかって、風にそよいだ。
あれは……幸恵のポロシャツだ。
ややあって、また白い飛翔物。まるで、くさむらから飛び立つ白鳩のように放り上げられたのは、幸恵のスコートだった。
そして、ブラジャーが、ソックスが、最後には、パンツが……次々に空中に放り上げられては、雑草の茎に絡まった。
「止めて――ッ!」
ブッシュの中から、幸恵の叫び声が上がった。
それを見下ろして、ニヤニヤと笑っている男2人。
「止めろ――ッ!」
叫びながら懸命に足を動かすのだが、聡史の足は一向に前に進んでいかない。
見下ろしている男のひとりが、聡史の顔を見てニヤリとほくそ笑み、それから「おいで、おいで」と手招きした。
あの顔は、あの男は、確か……。

目が覚めると、汗をびっしょりかいていた。
下着の中で、ペニスがいきり立っていた。
怒りを鎮めようと、聡史はそっと、そこに手を添えた。
男たちに組み伏せられ、ポロシャツを脱がされ、スコートを剥ぎ取られる幸恵の姿が、想像上の網膜に浮かび上がる。
聡史はゆっくり、手を動かした。
その夢は、ラリー戦でのダブル・フォールトの報いに違いない――と、聡史は思った。
肝心の場面でダブル・フォールトを犯して、有賀幸恵をコートから下ろしてしまった。聡史の脳は、その過ちを、レイプされる彼女を救えなかった過ちへと書き換えて、上演して見せたのだ。
大した脚色だぜ――と感心する一方で、そんな想像の世界で「有賀幸恵」を使ってしまったことに、聡史は、少しうしろめたさを感じた。
テニス・スクールで顔を合わせるたびに、そのうしろめたさが顔をのぞかせ、幸恵に対する聡史の態度は、ちょっとぎこちなくなった。
そんな聡史に、声をかけてきたのは、幸恵のほうだった。
「海野さんって、お酒とか飲むほうですか?」
「ええ。強くはないですけど、そこそこは……」
「あのね、今度、オフ会やるんですよ。小山コーチが、大学卒業するんで、そのお祝いを兼ねて、みんなで飲み会やろうかって話になってるんですけど……」
「エッ!? 小山コーチ、まだ卒業してなかったんですか?」
「そうなんですよォ。もう、3年も留年してたんだけど、やっと卒業するんですって。それでね、私と、あと、児玉さんでしょ、早川さんでしょ、それに、大沢さん。あと、2,3人、声かけようと思ってるんですけど、もしよかったら」
「じゃ、枯れ木も山のにぎわいってことで……」
「何言ってるんですか? 全然、枯れてなんかないじゃないですか。てことは、参加にしといていいですか?」
「ハイ。お願いします」
聡史が頭を下げると、幸恵は、横にいる児玉慶子の腕を肘でちょん……と突いた。
慶子が、その腕を「もォ―ッ」というふうに押し返した。

会場に指定されたのは、「ASKテニス・スクール」からほど遠くない駅前の雑居ビルにある居酒屋だった。全国にチェーン展開している居酒屋で、ふだんならけっして足を踏み入れない種類の店だ。
幹事を務めている有賀幸恵の名前を出すと、「あ、こちらへどうぞ」と、奥の座敷席に案内された。案内された座敷には、すでに、有賀幸恵と児玉慶子、早川亮、それに大沢健一が座を締めて、ジョッキに継がれた銘々の酒を口にしていた。
店は、すべての席が個室風に造られている。注文も、卓上に置かれた端末からというシステムになっていた。
「海野さん、こういうお店、あんまり入ったことないでしょう?」
幸恵は、勝手がわからずキョロキョロしている聡史に気を遣った。
「つか、この端末とかには、ちょっと驚いてます。おじさんには、珍しいものばかりですよ」
「ナニ、言ってるんですか。ボクらと大して変わらないじゃないすか」
早川亮に「まぁ、まぁ、どうぞ」と勧められて、席に座ると、幸恵が「あの……」と声をかけてきた。
「もう、勝手に焼酎をボトルで取っちゃったんですけど、焼酎でよかったですか?」
「あ、もちろんです」
「飲み方は、どうします? えっとね……お湯で割るか、水で割るか、ロックにするか、あと、ウーロン茶でも割れるんだけど……」
「なんか、有賀さん、お店の人みたいですね」
「そうでしょう?」と、横から大沢健一が口を出した。
「いいよなぁ、こういう人のダンナ。毎晩、こうやって、晩酌の相手、してもらえるんですよ。お酒作ってくれる姿も色っぽいしね。ダンナ、たまんないだろうなぁ」
大沢の下品な口調に、幸恵は少しツンとした顔をして、それから聡史のために焼酎のウーロン割りを作ってくれた。
ジョッキの底についた水滴を拭き取って、「ハイ、どうぞ」と差し出してくれる姿が、確かに色っぽくはある。
そのとき、聡史は思い出した。
夢の中で、辱められる幸恵をニヤニヤしながら見下ろしていた男の顔。あれは、確かに、この男だった――。
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