第28夜☆限りなくデリバリー化する、日本の「フーゾク」
哲雄 日本じゃ、売春は禁止ってことになってるから、表向き本番行為はやらないことになってる。でも、実際は……。
AKI やってるところもあるよね? ソープランドとかはそうなんでしょ?
哲雄 あのさ、「そうなんでしょ?」とか言いながら、私のつぶらな瞳をのぞき込まないでくれる?
AKI つ・ぶ・ら? 「つぶら」って「小さい」って意味だっけ?
哲雄 そう……じゃなくて。私は、ああいう水を使う場所には近づきたくないのです。
AKI エッ、エッ!? それはまたどうして?
哲雄 なんか、不衛生でしょ、湿ってる場所って。もしかしたら、前に来た客が梅毒持ちで、排水口のあたりには、まだスピロヘータがうじゃうじゃいるかもしれない……とかさ。そいつが精液を放出したかもしれない湯船に浸かるなんてのは、いかがなものか……とかさ。気になるわけですよ、そういうことが。
AKI ウワーッ、けっこう神経質。
哲雄 繊細って言ってくれる?
AKI でも、そのわりに描写がリアルでしたけど…。
哲雄 だから、のぞいたことぐらいはありますって。スポーツ紙のそういうページを担当してたこともあるから。でも、個人的にはあんまり好きじゃなかった。
AKI で、どうなの? やっちゃうわけわけでしょ、そういうところでは?
哲雄 やる、やる。「うちは1時間に3発」とか「業界初!! なんと90分4発」なんてことをキャッチフレーズにしてた時代だったからね。いまはどうだか知らないけど。
AKI エッ、それ本番なんでしょ? よく摘発されなかったよね。
哲雄 全部、本番てわけじゃなくて、1発はお口で、2発目はマットで……とかコースがあるわけだけど、必ず「最後はベッドで濃厚に…」なんて、どこも言ってたから、4~5発のうち、1、2発は合体してたんじゃない。でもそれは、「あくまで客と女の子の自由交渉であって、店は関知せず」という建前になってたから、現場を押さえない限り、摘発のしようがなかったわけですよ。
AKI なんか出来レースっぽいね。
哲雄 だと思うよ。当局だって、そういうガス抜きのシステムがないと、性犯罪が増えるってことぐらい、わかってただろうし。だから、「売防法」なんてのは偽善だって言うんだよね。それだったら、管理のしっかりした遊郭を残しといたほうが、よっぽどまし。
AKI なんか、この前からずいぶん、遊郭にこだわってません?
哲雄 というか、昔の遊郭って、「男を育てる場所」でもあったと思うんだよ。小遣い握り締めてきた小僧に、姐さんたちが「いいかい? 女にさわるときにはね……」みたいなことを手ほどきをしてあげたりしたわけですよ。日本文学だって、遊郭とは切っても切れない関係があったしね。
AKI それがいまじゃ、フーゾク。ね、ソープ以外に何かあったの? 哲ジイたちの時代には?
哲雄 ま、主なところだと、ピンク・サロン、俗にピンサロかなぁ。これは、手抜き(←ハンド・テクニックのことです)の世界で、一応、風俗営業として認められてた。あとは、非合法の世界じゃないの。俗に「立ちんぼ」とか呼ばれてた街娼もいたけど、すごく場所が限られてたし、デート・クラブなんてのもあったけど、ま、あんまりメジャーじゃなかったかなぁ。そのうち、「マントル」とか「ホテトル」が登場して、それがいまの「デリヘル」の源流になったような気がするんだ。
AKI マ、マントル!? なんすか、それ?
哲雄 アレ!? 語源は何だっけ? 確かまだ、「ソープランド」を「トルコ風呂」と呼んでた時代で、それをマンションの一室でやりますよ、というんで「マントル」と呼んだんじゃなかったかな。そのうち、出張型の「ホテトル」が主流になっていった。
AKI 「ホテトル」は「ホテル・トルコ」?
哲雄 たぶん。で、「ホテル」とは言ってるけど、自宅もOKみたいになっていって、そのうち、「デリヘル」と呼ぶようになった……と、記憶しておりますが。
AKI じゃ、その頃から、出張型のフーゾクが増えていったのね。
哲雄 大きかったのは、風営法の改正だと思うんだ。
AKI 何か関係があるの?
哲雄 風営法が改正されて、街中に店舗を構える「固定店舗型のフーゾク店」は、ほとんど新規開店ができなくなったんだよね。たぶん、改装オープンもむずかしくなった。で、そういう店が次々に店をたたんで、デリバリー・スタイルに業態を変えていったんだ。
AKI あ、それでかぁ。ここ何年か、ものすごい勢いで出張型のフーゾク店が増えてるのは。ま、おかげで、街はきれいになりましたけど……。
哲雄 それなんだよねぇ、問題は。
AKI ハ? 何か不都合でも?
哲雄 街はきれいになったほうがいいですか?
AKI そりゃ、いいでしょ。気持ちいいもん、そのほうが。
哲雄 ものの見事に整備されたニュータウンみたいなところに、用があって何度か足を運んだことがあるんだけど、何かさ、不気味なんだよね。
AKI 不気味?
哲雄 ここ、ほんとうに人間が住んでる街なのか……って感じがして。街を歩いていても、焼き鳥のニオイひとつ漂ってこない。怪しげな看板を掲げる飲み屋もない。大声で飲み交わしている人たちの喧騒もない、もちろん、フーゾクのフの字もない。
AKI 要するに、哲ジイの不純な魂の逃げ込む場所がないわけね?
哲雄 魂は常に不純である……てなことはともかくとして、人の生きる場所として、あまりにワイザツ感がなさすぎる。これじゃ、アウトサイダーは生きていられない。
AKI エッ、哲ジイって、アウトサイダーだったの? 三ツ矢サイダーじゃなくて?
哲雄 笑いましょうか? ホッ、ホッ、ホッ……。
AKI バカにしてる……。
哲雄 ま、この歳で家族なし、婚歴なし……ってのは、アウトサイダーでしょ。役所で「エッ!?」とか言われる人は、だいたいアウトサイダーですよ。寅さんほどじゃないにしても。
AKI それは存じませんでした。で、街はもう少しワイザツであってほしいと?
哲雄 街に限らずね。何より私が「危険だ」と感じてるのは、「浄化」という考え方なんだよね。本来、罪深い存在であるはずの人間が、「オレたちはきれいだ、美しい」と叫んで、醜いと感じるものをシステムの中から追放しようとする、あるいは「ないことにしよう」とする。こういう方向に走り始めると、とんでもない社会ができあがってしまうと思うんだ。たとえば、「民族浄化」みたいなことまでやりかねない社会。
AKI 話も、とんでもない方向に進みつつあります。
哲雄 あ、そうか。フーゾクの話してたんだっけ。わかった。じゃ、次回は、出張エステ嬢のAKIさんを講師にお迎えして、現在の日本におけるフーゾク・デリバリーの現状について、語っていただくことにしましょう。
AKI 語りませんからね、私。
AKI ウワーッ、けっこう神経質。
哲雄 繊細って言ってくれる?
AKI でも、そのわりに描写がリアルでしたけど…。
哲雄 だから、のぞいたことぐらいはありますって。スポーツ紙のそういうページを担当してたこともあるから。でも、個人的にはあんまり好きじゃなかった。
AKI で、どうなの? やっちゃうわけわけでしょ、そういうところでは?
哲雄 やる、やる。「うちは1時間に3発」とか「業界初!! なんと90分4発」なんてことをキャッチフレーズにしてた時代だったからね。いまはどうだか知らないけど。
AKI エッ、それ本番なんでしょ? よく摘発されなかったよね。
哲雄 全部、本番てわけじゃなくて、1発はお口で、2発目はマットで……とかコースがあるわけだけど、必ず「最後はベッドで濃厚に…」なんて、どこも言ってたから、4~5発のうち、1、2発は合体してたんじゃない。でもそれは、「あくまで客と女の子の自由交渉であって、店は関知せず」という建前になってたから、現場を押さえない限り、摘発のしようがなかったわけですよ。
AKI なんか出来レースっぽいね。
哲雄 だと思うよ。当局だって、そういうガス抜きのシステムがないと、性犯罪が増えるってことぐらい、わかってただろうし。だから、「売防法」なんてのは偽善だって言うんだよね。それだったら、管理のしっかりした遊郭を残しといたほうが、よっぽどまし。
AKI なんか、この前からずいぶん、遊郭にこだわってません?
哲雄 というか、昔の遊郭って、「男を育てる場所」でもあったと思うんだよ。小遣い握り締めてきた小僧に、姐さんたちが「いいかい? 女にさわるときにはね……」みたいなことを手ほどきをしてあげたりしたわけですよ。日本文学だって、遊郭とは切っても切れない関係があったしね。
AKI それがいまじゃ、フーゾク。ね、ソープ以外に何かあったの? 哲ジイたちの時代には?
哲雄 ま、主なところだと、ピンク・サロン、俗にピンサロかなぁ。これは、手抜き(←ハンド・テクニックのことです)の世界で、一応、風俗営業として認められてた。あとは、非合法の世界じゃないの。俗に「立ちんぼ」とか呼ばれてた街娼もいたけど、すごく場所が限られてたし、デート・クラブなんてのもあったけど、ま、あんまりメジャーじゃなかったかなぁ。そのうち、「マントル」とか「ホテトル」が登場して、それがいまの「デリヘル」の源流になったような気がするんだ。
AKI マ、マントル!? なんすか、それ?
哲雄 アレ!? 語源は何だっけ? 確かまだ、「ソープランド」を「トルコ風呂」と呼んでた時代で、それをマンションの一室でやりますよ、というんで「マントル」と呼んだんじゃなかったかな。そのうち、出張型の「ホテトル」が主流になっていった。
AKI 「ホテトル」は「ホテル・トルコ」?
哲雄 たぶん。で、「ホテル」とは言ってるけど、自宅もOKみたいになっていって、そのうち、「デリヘル」と呼ぶようになった……と、記憶しておりますが。
AKI じゃ、その頃から、出張型のフーゾクが増えていったのね。
哲雄 大きかったのは、風営法の改正だと思うんだ。
AKI 何か関係があるの?
哲雄 風営法が改正されて、街中に店舗を構える「固定店舗型のフーゾク店」は、ほとんど新規開店ができなくなったんだよね。たぶん、改装オープンもむずかしくなった。で、そういう店が次々に店をたたんで、デリバリー・スタイルに業態を変えていったんだ。
AKI あ、それでかぁ。ここ何年か、ものすごい勢いで出張型のフーゾク店が増えてるのは。ま、おかげで、街はきれいになりましたけど……。
哲雄 それなんだよねぇ、問題は。
AKI ハ? 何か不都合でも?
哲雄 街はきれいになったほうがいいですか?
AKI そりゃ、いいでしょ。気持ちいいもん、そのほうが。
哲雄 ものの見事に整備されたニュータウンみたいなところに、用があって何度か足を運んだことがあるんだけど、何かさ、不気味なんだよね。
AKI 不気味?
哲雄 ここ、ほんとうに人間が住んでる街なのか……って感じがして。街を歩いていても、焼き鳥のニオイひとつ漂ってこない。怪しげな看板を掲げる飲み屋もない。大声で飲み交わしている人たちの喧騒もない、もちろん、フーゾクのフの字もない。
AKI 要するに、哲ジイの不純な魂の逃げ込む場所がないわけね?
哲雄 魂は常に不純である……てなことはともかくとして、人の生きる場所として、あまりにワイザツ感がなさすぎる。これじゃ、アウトサイダーは生きていられない。
AKI エッ、哲ジイって、アウトサイダーだったの? 三ツ矢サイダーじゃなくて?
哲雄 笑いましょうか? ホッ、ホッ、ホッ……。
AKI バカにしてる……。
哲雄 ま、この歳で家族なし、婚歴なし……ってのは、アウトサイダーでしょ。役所で「エッ!?」とか言われる人は、だいたいアウトサイダーですよ。寅さんほどじゃないにしても。
AKI それは存じませんでした。で、街はもう少しワイザツであってほしいと?
哲雄 街に限らずね。何より私が「危険だ」と感じてるのは、「浄化」という考え方なんだよね。本来、罪深い存在であるはずの人間が、「オレたちはきれいだ、美しい」と叫んで、醜いと感じるものをシステムの中から追放しようとする、あるいは「ないことにしよう」とする。こういう方向に走り始めると、とんでもない社会ができあがってしまうと思うんだ。たとえば、「民族浄化」みたいなことまでやりかねない社会。
AKI 話も、とんでもない方向に進みつつあります。
哲雄 あ、そうか。フーゾクの話してたんだっけ。わかった。じゃ、次回は、出張エステ嬢のAKIさんを講師にお迎えして、現在の日本におけるフーゾク・デリバリーの現状について、語っていただくことにしましょう。
AKI 語りませんからね、私。
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