第4夜 オスはバラ撒き、ツルは売春する!?
AKI 21世紀になって、彼女いないって人に、こんなこと訊いてもムダかもしれないけど……。
哲雄 な、なんですか?
AKI もしも、もしも……ですよ、奇跡的に哲ジイに彼女ができたとしたら、やっぱり一途に、彼女だけを愛するのかな?
哲雄 そんな……奇跡の話には、コメントのしようがありませんな。
AKI だから、もしも……って言ってるじゃありませんか。まったく、ひがみっぽいんだから。
哲雄 じゃ、もしAKIちゃんが私の彼女だったら……という仮定でお答えしましょう。たぶん、キミの質問は、「それでも気移りするか?」と尋ねてるんだと思うけど、答えはやっぱり、「わかりません」だね。
AKI つまり、それは「浮気するぞ」ってこと?
哲雄 いや、たぶん……浮気はしない。
AKI ガマンするってこと?
哲雄 いや、ガマンじゃないな。
AKI でも、気移りはするかもしれないわけでしょ?
哲雄 気移り……というより、目移り……かな。男って、そういう生きものなんだよ。
AKI そういう……って、どういう?
哲雄 つまり、自分の精子をできるだけ広範囲にバラ撒きたい、という生きもの。「種の保存」という、生物のもっとも基本的な使命を果たすためには、そのほうが効率がいいからね。AKI エーッ、それが、いちばん大事な使命なの?
哲雄 そうらしいよ。あのさ、DNAって、知ってるよね?
AKI あの……DNA鑑定とかのDNAでしょ? それくらい知ってますよ。
哲雄 この地球上に生物が誕生したのは、まずアミノ酸というものができて、その中に、DNAという特殊なアミノ酸が登場したからなんだけど、このDNAがどう特殊かというと……。
AKI わかった! 遺伝だ!
哲雄 ウン、その遺伝とは何かというと、コピーなんだよね。数あるアミノ酸の中で、このDNAは、唯一、自分の複製を作るという特殊な性質を持っていた。この自己複製という機能があって、はじめて、細胞というものができ、その細胞が増殖して、はじめて、複雑な構造の生物の体を作ることができ、その生物が自分の子孫を複製することができて、はじめて、生物は数を増やし、世代交代できるようになった。
AKI DNAはエラいッ!
哲雄 そう、そのエラいDNAのたったひとつの役割は、自分をコピーすること。そしてネ、ここが肝心なんだけど、この地球上で生物として繁栄するための最大の条件は、そのコピーを作るための、いかに優秀なシステムを持っているか、ってことなんだ。『利己的な遺伝子』という大ベストセラーを書いたリチャード・ドーキンスという人が、遺伝子を「利己的」と言ったのも、そういう意味だと思う。

☆ベストセラー『利己的な遺伝子』
リチャード・ドーキンスが書いた世界的なベストセラー。生物は、「効率よくコピーを残したい」という、利己的な遺伝子にプログラムされたロボットなのだ、という主張は、世界中にショックを与えた。
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AKI だから、精子をバラ撒くの?
哲雄 ヘタな鉄砲も、数打ちゃ当たる……ってネ。私なんぞ、できることなら、銀座を歩いてる女の子なんか、一列に並ばせて、「ハイ、次の方、どうぞ」てな調子でバラ撒いてみたい……なんて思ったりもする。
AKI ヘェー、そんなに早いんだぁ。
哲雄 という問題じゃないでしょ。
AKI でも、ほんとは、そういうことやってみたいんだ。この、スケベおやじ!
哲雄 いや、別にやってみたいわけじゃない。もののたとえです。つまり、生物的仕組みから言うと、オスには、そういうバラ撒き本能があるってこと。
AKI じゃ、メスは?
哲雄 いったん、受精したら、その受精卵を大事に育てなくちゃならない。特に、ほ乳類なんて、おなかの中で子どもを育てるわけだから、その間、他のオスの侵入は防ごうとする。これも、生物学的本能。
AKI ウワーッ、女って損!
哲雄 損とか得とかって問題じゃないでしょ。その代わりオスは、必死でエサを獲ってきて、メスと子どもを養わなくちゃならない。これはこれで大変。エサの量が不十分だと感じると、メスはさっさと、他のオスの元に走ってしまうからね。ツルなんか、売春までしてしまうらしいよ。
AKI バ、バイシュン……ですか?
哲雄 ウン。他のオスのテリトリーに飛んでいって、お尻を振るんだって。で、交尾をさせる代わりに、エサを分けてもらう。売春でしょ?
AKI やるねェ、ツルも……。
哲雄 感心してる場合じゃない。つまり、生物、特に動物の世界では、オスはバラ撒き、メスはしっかり受精卵を守る。キミは、「メスは損」って言ったけど、その代わり、メスはしっかり相手を選ぶ。いい加減なオスを受け入れると、子々孫々にまで影響するから、立派な精子を受け取るために、選ぶ、選ぶ。
AKI 簡単にはやらせない、ってことね。最近の女の子たちは、そうでもないと思うけど……。
哲雄 キミだって、最近の女の子じゃないか。ああ、それなのに……。
AKI な、なんですか?
哲雄 いや、何でもない。ま、そんなわけで、男は、本能的に浮気モノ。女は、どちらかというと一途。これが、生物学的宿命ということになるのではあるが……。
AKI あるが……? そこから先は?
哲雄 にもかかわらず、少なくとも私は、浮気はたぶんしないだろう、いや、しないようにしようと思う。それはなぜか?
AKI なぜなの? そこが聞きたいのに……。
哲雄 その話は、長くなるから、また今度。
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