美しすぎる従妹〈4〉 ユリ弁

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叔父と叔母、ユリちゃんに見送られて、私は森高家を後にした。
九州までの長い旅。岩国まで真人が一緒に走った。
錦帯橋で広げた弁当は、ユリちゃんのお手製だった――


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈4〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、私は、ふくらみ始めた蕾を見た。私にビールをすすめながら、叔父は、政治や世界情勢について熱く語りかけてくる。ふたりの話が熱を帯びる様子を、ユリは、興味深そうに見ている。そこへ真人が帰って来た。ユリと真人は、性格が正反対の兄妹だった――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載4回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 真夏の太陽が、ジリジリと、頭を焼いてくる。
 私は、短パンにTシャツという格好で、頭には麦わら帽子をかぶって、自転車を引っ張り出した。
 真人ちゃんは、トレパンにポロシャツという姿だった。
 「勇ましい格好じゃね」
 私の格好を見て、叔母が言う。
 「後で、お母さんに電話しとくけん、気をつけて行きんさいよ」
 「電話、するんですか?」
 「そらそうよ。何も言わんで送り出したんじゃ、私がお姉さんに叱られるけん」
 いきなり自転車で帰って、驚かそう――という私の計画は、それで、ちょっとだけ狂った。
 「それじゃ、行きますけん。どうも、お世話になりました」
 そう言って、勢いよくサドルにまたがると、「あ、真人」と、叔母が真人ちゃんを呼び止めた。
 「お弁当、作っといたけん、錦帯橋に着いたら、ふたりで食べりんさい」
 風呂敷で包んだ2人分の弁当とお茶を、ナップザックに入れて、真人ちゃんに持たせた。
 「おにぎりは、ユリが握ったけん、ちょっと不格好かしれんけど……」
 「不格好」と言われて、ユリちゃんは、不満げに頬をふくらませた。
 「ありがとう、ユリちゃん」
 私が、麦わら帽子を取って頭を下げると、ユリちゃんは恥ずかしそうに頬を緩めて、ペコリと頭を下げた。
 「じゃ、行こうか、真人ちゃん」
 グイとペダルを踏み込んで、路地を走り始めると、後ろから「ムリせんで行きんさいよ」と叔父の声が飛んだ。
 「いってらっしゃ~い!」
 その横から、元気のいい、張りのある声が飛んできた。
 路地から表通りに飛び出す角で、一度だけ、後ろを振り返った。
 叔父と叔母が、並んで見送る横で、ユリちゃんがまっすぐ天に向かって伸ばした手を勢いよく振っていた。ピンク色のショートパンツに白いシャツ。その口が何かを叫んでいるように見えたが、何を言っているのかは、聞き取れなかった。
 その姿に、手を挙げて応え、私は、グイとペダルを踏み込んだ。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

「感情的な人」とは「感情」で向き合ってはいけない

手と手 

「感情」を露わにあなたにモノ言う人。そんな人に、
同じく「感情」で向き合うと、関係はこじれるばかりです。
そんなときには、「階層ずらし」が効果的という話をご紹介――。


 愛の会話力レッスン   レッスン78 
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 だれかがあなたに「感情」をぶつけてきた。
 日常生活では、しばしばあることだと思います。
 ぶつけてくる「感情」には、「怒り」もあれば、「悲しみ」もあります。「苦しい」もあれば、「楽しい」もあるだろうと思います。「楽しい」とか「うれしい」であればいいのですが、「怒り」や「悲しみ」「苦しみ」だと、ちょっとやっかいです。
 こういうとき、やってはいけないのは、「感情」に「感情」で向き合うということです。
 相手が「感情的」であればあるほど、応じるあなたも「感情的」になってしまう。これをやると、ふたりは、抜き差しならない「感情のぶつかり合い」という泥沼に足を踏み入れることになってしまいます。
 では、どうするか?
 そんなときには、「理性」にお出まし願うしかない――と私は思っています。
 そして、相手が「感情」をぶつけてくるそのステージを、1階層分でもいいので、ずらして応じる。これをやれば、「感情」と「感情」が正面からぶつかり合って、おたがいに傷つくだけ、という事態を避けられるのではないか、と思うわけです。
 その「理性」には、いくつかの階層があります。本ブログの『心の抱き枕』シリーズでもご紹介しました(その34)が、私は、その階層には、4段階ほどある――と考えています。もう一度、ご紹介しておきましょう。

「理性」の4つの階層

 【第1階層】  損得・利害などを計算し、「得な行動」を選択しようとする利己的な「理性」のはたらき……処世術、蓄財術、各種実用の知恵など。

 【第2階層】  所属する集団のルールや序列などを理解し、良好な関係を築こうとする「理性」のはたらき……道徳、常識、マナー、人間関係の知恵など。

 【第3階層】  広く社会や世界との関わり方を考え、自分の生き方に道筋をつけようとする「理性」のはたらき……世界観、価値観、倫理など。

 【第4階層】  生きていることの意味を考え、生と死を超えた超越的なものへと思いを馳せる「理性」のはたらき……宗教、哲学、思想など。

 「感情」と「感情」がぶつかりそうになったときには、相手が拠って立っている「階層」を理解して、その階層をずらしてあげると、無用の衝突を避けることができる。わかりやすく言うと、「感情的」になった相手とは「同じ土俵」で闘うな――ということです。
 私たちは、ふだんの生活の中で、何気なく、この「階層ずらし」を行っていることがあります。

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ペニスは、意思の力で動かせるのか?

手と手 

ペニスは、なぜカチンカチンになるのか?
その仕組みを図解付きで解説してみます。


 性とエッチの《雑学》file.151   R15 
このシリーズは真面目に「性」を取り上げるシリーズです。15歳未満の方はご退出ください。

【今回のキーワード】 海綿体 坐骨海綿体筋  345
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 ペニスが、自分の意思で、上下左右に自在に動かせたら?
 男なら、一度は、そんなことを夢想したことがあるかもしれません。
 性能のいいバイブのように、彼女のあの中で、ペニスが自由自在に角度を変えたり、動き方を変えたりできたら、彼女の敏感なGスポットだって、ピンポイントで責めることができる。
 彼女は、もう、自分のペニスから離れられなくなってしまうに違いない。
 そんなことを妄想したことがある――という人も、少なくないだろうと思います。
 はたして、そんなことができるのか?
 答えは、半分「YES」、半分「NO」です。
 その理由を説明する前に、男の「おチンチン」が硬くなる仕組みを解説しておきましょう。本シリーズの《File-3》でも解説したことですが、復習です。

 硬くなったペニスは、まるで、中に骨でも通ってるんじゃないか――と思うほどカチンカチンになりますが、別にそこに骨があるわけじゃないってことは、もうご存じかと思います。
 硬くなるのは、血があそこに集中して、タイヤのチューブがパンパンに膨らむように膨らんでいるからだ――ということも、ほとんどの方が、ご存じだろうと思います。
 しかし、血がそれをふくらませる仕組みについては、どうでしょう?
 たぶん、ほとんどの方がご存じないはずです。
 まずは、そこらへんから話を始めてみましょう。

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美しすぎる従妹〈3〉 2人の「お兄ちゃん」

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高校生の私にビールをすすめながら、政治や世界情勢の話を
熱く語りかけてくる叔父。ふたりの話が過熱していくのを、
ユリちゃんは、興味深そうに眺めていた―― 


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈3〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、ふくらみ始めた蕾を見た私は――

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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載3回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 「アキちゃん、もう一杯ぐらい、いけるじゃろ?」
 叔父は、空になった私のコップにビールを注ぎながら、次々に質問を投げかけてきた。
 勉強はどうだ、得意な科目は何だ、志望校は決めたのか……。
 最初は、ふつうのおとながふつうの高校生にぶつける、ありきたりの質問だった。しかし、その質問が、いつの間にか、ありきたりではなくなっていった。
 「アキちゃんは、いまのソ連についてどう思う?」
 「原爆投下について、アキちゃんたちはどう思ってる?」
 「日本に軍隊は必要じゃろうかね? どう思う?」
 叔父が問いかける質問に、まだ17歳だった私は、その年頃特有の生意気さをむき出しに、応じていたような気がする。
 そのやりとりを見ていた叔母が、「高校生相手に、そがいにムキになって話さんでもええじゃろが」と、叔父をいさめにかかった。しかし、叔父は言うのだった。
 「いや、この歳じゃから、こういう話をしとくんじゃ。真人にこういう話をしてもつまらんしのう」
 横で、ユリちゃんがクスリ……と笑ったような気がした。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

美しすぎる従妹〈2〉 彼女の胸で目覚める蕾

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帰省の自転車旅行。広島の叔父・叔母の家を訪ねた私を
中学生になった従妹は、ムームー姿で迎えてくれた。
そのゆったりとした胸元に、私は見てはいけないものを見た―― 


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈2〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載2回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらからどうぞ。

 「汗かいたでしょ、お風呂に入りんさい」
 叔母に言われて、浴室に向かい、肌に張りついた汗だらけのシャツを脱いでいると、「あの……アキ兄ちゃん」と声がした。
 「タオルと石鹸、これ、使ってください」
 仕切の板戸の向こうで、涼やかな声がする。
 「ありがとう。そこに置いといて」
 「では、戸の前に置いときますけん、どうぞ、ごゆっくり」
 ユリちゃん、いつの間に、こんなしっかりしたもの言いができるようになったんだろう?
 まだ中学生なのに、ちょっとだけおとなっぽくなった――と感じられるユリちゃんの言葉遣いと、その声の純な響きに、私の胸が小さく波立った。
 森高家の浴槽は、五右衛門風呂だった。
 「あの……浴槽の鉄の縁に触れると熱いんで、気ィつけてくださいね。あ、もし熱かったり、ぬるかったりしたら、言うてくださいね」
 「ありがとう」と返しながら、私は、竈に石炭をくべているユリちゃんの姿を想像した。
 中学時代、風呂釜に薪を入れて火を起こし、燃え上がった薪の上に石炭をくべるのは、私の仕事だった。森高家では、その役目はユリちゃんなんだろうか……。
 ユリちゃんが沸かした湯に、体を浸しながら、私は「ヘイ・ポーラ!」を口ずさんだ。

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テーマ : 官能小説
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「あばた」を「えくぼ」と言う、【やさしい性格分析】

手と手 

同じことを言うのに、相手を「ムッ」とさせる言い方もあれば、
喜ばせる言い方もあります。相手の性格などを言い表すときには、
少しでも「やさしい言い方」を。その言い換え方を工夫してみました。


 愛の会話力レッスン   レッスン77 
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 人の性格を勝手に分析してみせる。
 それを得意げにやりたがる人たちがいます。
 どちらかと言うと、女性に多く見られる傾向ですが、筆者・長住は、そうやって分析されることが、あまりうれしくはありません。
 ひとつには、その分析がつまらないから――です。

  長住さんって、けっこう、歳でしょ?
  見りゃわかるだろ、バカ!

 てな具合で、分析にも何にもなってなかったりします。
 もうひとつは、その言い方がヘタだからです。「ヘタ」というより、ムカつく!

  長住さんって、マザコンなのよねェ。
  ハァ? ハァ~~ッ……?

 別に「マザコン」という言葉に嫌悪感を抱いているわけじゃありません。むしろ、「すべての男は、本質的にマザコンである」と思っているくらいですから、それはそれでいいのですが、問題は「言い方」なんですね。

 みなさんもご存じのように、物事には「」と「」があります。同じものでも、光の当てようによって、あるいは見るアングルによって、美しく見えることもあれば、醜く見えることもあります。
 いい例が、「あばた」と「えくぼ」の関係です。同じ、皮膚表面の凹みが、見ようによって「あばた」にしか見えなかったり、「えくぼ」に見えてしまったりするわけですが、これと同じことが、「性格」についても言えます。
 どうせ、人の性格を分析してみせるなら、「それはあばただ」と言われるより、「えくぼだ」と言われたほうが、数段、うれしいわけで、そういう言い方ができるかどうかが、人望を得られるかどうかの分かれ道ともなるわけです。
 そこで、今回は、「性格分析」に伴う「ものの言い方」をご紹介してみようと思います。
 同じ性質を表す「言い方」を、「ムカつく言い方」と「うれしい言い方」で比較してみよう――と思うわけです。

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美しすぎる従妹〈1〉 小さな手の思い出

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私の手は、つなぎ合った彼女の小さな手のぬくもりを
記憶している。それから10年、高校生になった私は、
中学生になった従妹・ユリと、広島で再会した――


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈1〉

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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。


 赤ん坊の頃の自分がどんなだったのか、私には、それを知る方法がない。
 一枚の写真も残されてない。
 何をして遊んでいたのか、何を食べていたのか、そういう記憶もほとんどない。
 ほんとうに、自分がその家の子として生まれたのかどうかさえ、確かめる方法は何もない。
 古いアルバムの最初の1ページに、どうやらこれが自分らしい――という男の子が写った、一枚の写真が貼ってある。
 決して豊かとは言えなかった私の家には、まだ、カメラがなかった。小学校高学年になって、カメラ狂いの担任教諭がバシャバシャ写真を撮り始めるまで、私の少年時代を写した写真は、唯一、その一枚が残されているだけだった。
 いつ、どういう状況で撮られたのか、私には記憶がない。
 母の話によると、たぶん、小学校入学直後ぐらいに撮られたものだろうと言う。その母親と祖母に付き添われた男の子が、うつむき加減の顔で、まぶしそうにカメラを見上げている。
 「あんたは、いっつも、こういうしかめ顔しとったんよ」
 母親に言われて、やっと、それが自分であるとわかる、そんな一枚だった。
 写真の男の子は、ひとりの女の子と手をつないでいた。
 目がクリッとしたおかっぱ頭の女の子は、頭の右側に大きなリボンを着け、白いソックスに黒光りのする靴を履いて、その両足をまっすぐに揃えて立っている。
 「ユリちゃん、かわいかったねェ、この頃から」
 母親が、懐かしそうにその顔を指先でなぞってみせる。
 たぶん、それは、母が私を連れて祖母の家に遊びに行ったときのものだ。ユリちゃんも母親に連れられて遊びに来ていて、その日は、みんなで遊園地に行ったのだ――と言う。
 遊園地のことは、覚えてない。
 しかし、ユリちゃんと手をつないだことだけは覚えている。
 「ホラ、ユリちゃんと手をつないでやらんね」
 祖母だったか、母親だったかに言われて、恐る恐る手をつないだことだけは、なぜか、ハッキリ覚えている。
 小さな手が、どんなに力なく私の手をつかんでいたかも、しっかり記憶している。
 そのとき、自分の心臓が、どんなに鼓動を速めていたかも、遠い記憶として、頭の片隅に残っている。
 「ユリ」という名前が、私の頭の中で特別の地位を占めるようになったのも、たぶん、そのときだろう――と、私は思う。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

エピローグ~郷里の海に舞う、白い魂

後姿 父と母が愛し合った時代へ。感謝をこめて☆ 

父と私の旅は、最終目的地に着いた。
半島の南端に突き出た岬に立つと、
父は巾着袋の紐を解き、白い粉を取り出した。
母の粉骨だった。父が撒いた粉は南風に乗って、
母が愛した郷里の海に舞った――。


 愛を駆ける急行   エピローグ 
郷里の海に舞う、白い魂

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この話は、「急行霧島」として執筆した作品のリメイク版、連載59回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 父・秋吉敏が、母・昌子と出会ったのは、九州への帰省の列車、急行「霧島」の車内だった。京都のミッション系の女子大に通う女子大生で、鹿児島まで帰省すると言う昌子と、横浜の大学に通い、博多まで帰省する敏。ふたりには、2つの共通点があった。ともに、大学でコーラス・サークルに所属していたこと。もうひとつは、クリスチャンである、ということだった。意気投合したふたりは、春休みにまた、「霧島」で会おうと約束を交わす。父によれば、その頃の若者は、「政治的」か「非政治的(ノンポリ)」かのどちらかだったと言う。父と母は、その中間にいて「良心的な声」を挙げようとするグループに属していた。昌子は、通っているリベラル派の教会の牧師とともに、大阪のドヤ街で奉仕活動を続けていたが、交流するK大の合唱部には、そんな活動は自己満足にすぎない――と、政治思想を吹き込む男がいた。その年の夏休み、敏のY大グリークラブは、演奏旅行の最終日、京都で、昌子が所属するK女子大フローラル・コールとジョイントすることになった。京都で現地解散となる敏に、昌子は「京都で一泊しようよ」と提案した。昌子が「きょうの民宿のおじさん」と敏に紹介したのは、K大の学生寮に住む高城という男だった。人民を解放するためには武装闘争も必要だと言う高城は、火炎瓶もその手段のひとつになると主張。敏は、手段を誤った闘争からは、真の解放は得られないと反論した。翌日、「思索の道」を散策しながら、昌子は敏に訊いた。「愛に思想は必要だと思うか?」。敏の答えは、「愛にこそ思想が必要」だった。その年の10月8日、その出来事は起こった。ヘルメットを被り、角材を手にした学生たちが機動隊の壁に突進していく映像がニュースで流れると、翌日から、キャンパスの空気が一変した。その秋に開かれた「大学キリスト者全国協議会」に関東代表として出席した敏は、そこに、思いもしない姿を発見した。関西代表として参加した昌子と、彼女が通う教会からオブザーバーとして参加した落合牧師。会議は、「共産主義の悪魔と闘うアメリカの若者のために祈ろう」という「保守派」と、「殺されていくベトナムの人々のためにも祈るべき」と主張する「リベラル派」の対決で紛糾した。最終日の夜は、焚火を囲んでの祈祷会になった。「無力な私たちに勇気と知恵を」。昌子の祈りを「美しい」と感じている敏に、落合牧師がささやいた。「彼女を守ってあげてくださいね」。その年のクリスマス、敏たち関東組は、「ベトナムに平和を」をテーマに、集会とデモを計画し、昌子たち関西組は、大阪で「24時間キャンドル・サービス for ベトナム」を企画した。行動は別々だったが、ふたりは「小さな約束」を実行した。「ベトナムに平和を」と祈りながら、その中でちょっぴり、おたがいの心の平和も祈る、という約束だった。その年の年末、昌子たちの教会で行われるチャリティのカウントダウンに参加するために、敏は教会を訪ねた。教会の屋根の十字架を磨くというワークを果たして、その夜、敏が教会の屋根裏部屋で寝ていると、昌子が布団の中に忍んできた。「愛してる」と告白し、無知な体を重ね合ったふたり。結ばれた瞬間、ふたりは耳の奥で、教会のオルガンが奏でる讃美歌を聴いたような気がした。年が明けると、東大紛争が勃発した。時代は、激しく変化していた。そんな時代が、「おまえはどうする?」と問いかけてくる。春休み前に、父も母もコーラスを辞めた。忍び寄る政治の季節が、ふたりに歌を捨てさせた。その春、東大の紛争は全学ストに拡大し、日大では「全共闘」が結成されて、全学がバリケード封鎖された。そんなとき、昌子から一通の手紙が届いた。東京で「フォーク・コンサート」を開くことになった。できれば、2、3日、「あなたの部屋に泊めてほしい」と言うのだった。「平和を叫ぶ」と銘打ったコンサートは、関西で産声を挙げた「プロテスト・ソング」の旗手、神村信平の東京デビューでもあった。成功裏のうちにコンサートを終えた昌子は、敏の下宿にやって来た。目の前の運河の臭いが立ち込める敏の四畳半。ふたりは、そんな部屋で汗に濡れた体を重ね合い、昌子は、ピアニッシモで歓喜の声を漏らした。翌日、「東大を見てみたい」と言う昌子を敏は本郷へ案内した。安田講堂がバリケード封鎖されたばかりの東大では、全共闘が結成され、それを支援する各党派の旗が林立していた。その光景に目を見張っていると、「キミらも支援に来たのか?」と声がした。K大の寮で敏に武装闘争を熱く説いた高城だった。そして、もうひとり、キリスト教系学生組織のメンバーで、原理主義一派と共に闘った野本もいた。ふたりの案内でバリケードの中を見学した敏たちに野本が言った。「じきに、キミたちのキャンパスでも、ここと同じことが起こる。キミたちはキミたちの場所で、自分たちの行動を選んでくれ」。翌日、昌子を横浜の街に連れ出した敏だったが、その財布は底をつきかけていた。ふたりは、残りの数日間を自炊で過ごすことにした。昼間は横浜の街をブラつき、電熱器で炊いたご飯で自炊。夜になれば、ひとつ布団で肌を寄せ合う。それは、束の間の幸せな日々だった。その幸せな夏の日の後にやって来たのは、「流血の秋」だった。10・21「国際反戦デー」の街頭行動では、1000人近い逮捕者が出た。敏も、昌子も、迷っていた。「敵のためにさえ祈れ」という聖書の教えは、ほんとうに正しいのだろうか? その秋、敏たちは新たな難題に立ち向かうことになった。靖国神社を国家護持しようという動きだった。これだけは阻止しなくてはならない。熱く語り合う敏たち。しかし、その席に昌子の姿はなかった。昌子たちのキャンパスでも学園紛争が勃発し、昌子は闘争委員として、学園問題にかかりきりになっている、というのだった。敏は昌子を見守るためにも、落合牧師たちが計画している年末のフォーク集会に、参加する意思を固めた。その主役は、『あなたに』が東京の深夜放送でも流されるようになった神村信平だった。「信平さん、メジャー・デビューするんよ」とうれしそうに語る昌子の横で、浮かない顔の信平。フォーク集会の翌日、敏と信平は、一緒に教会の屋根に登った。そこで敏は信平から思わぬ告白を受けた。「ホレてたんや」と、信平は敏の体を後ろから小突き、そして言うのだった。「昌ちゃんを守ったってや」と。まっすぐな昌子が、時代の風に翻弄されないように……というのだ。冬休みが明けると、東大の安田講堂が落ちた。しかし、その炎は全国のキャンパスに広がり、敏のY大でも「全共闘」が結成された。敏は青いヘルメットを被り、昌子は赤を被って、全共闘に加わり、デモに参加した。そんな中、昌子の手紙がある決断を伝えてきた。「新橋へ行きます」と言うのだった。4・28沖縄デー。その日、敏は青を、昌子は赤を被って、それぞれの隊列に加わり、東京駅に集結して、高架上を新橋へ進撃した。青の部隊は、地上に降りた途端、機動隊のガス銃に一斉水平射撃を浴びて、隊列を崩し、赤の部隊は、高架の上で機動隊の挟撃に遭い、追い詰められた学生たちが、バラバラと地上に落ちてきた。銃撃に慄いた敏の足は、新橋の路上を走った。みっともない敗走だった。なんとか横浜に帰り着くと、橋のたもとにうずくまっている人影があった。昌子だった。その体は傷だらけだった。昌子は高架上で機動隊員に引きずり倒されたところを、何とか逃げてきたという。ボロボロに裂けたTシャツは胸元まで破けていた。このままでは帰れないという昌子に、敏は自分の黄色いTシャツを貸した。それでも、全共闘運動は、全国に広がる気配を見せていた。そんな中で、新宿の西口広場で神村信平たちがフォーク集会を開くという。知らせてきたのは、落合牧師だった。昌子からは、何の報せもない、連絡も取れない。何があったのか? その夏休み、敏は、帰省の「霧島」を京都で途中下車した。しかし、落合牧師も、昌子の消息を案じていた。もう、あの男に訊くしかない。K大の寮に訪ねた高城は、いきなり、「カンニンしてくれ」と、敏の前で土下座した。その口から語られたのは、想像した中でも最悪の事態だった。スト支援のために訪れたS大学で、高城たちは右翼学生の襲撃を受け、逃げ遅れた昌子が右翼学生たちに拉致された。発見されたのは、ズタズタに引き裂かれ、血が滲んだTシャツ。それ以来、昌子の消息が知れないというのだった。全共闘運動は数的な盛り上がりを見せ、過激各派は「秋の決戦」を叫んでいたが、敏の胸からは、急速にパトスが失われていった。未曾有の逮捕者を出して、70年安保闘争が終結すると、敏は学園を卒業して、産声を挙げたばかりの女性雑誌の編集部に就職した。その数年後、あの山荘立てこもり事件が起きた。地下に潜った過激派セクトのひとつが起こした事件だった。「おまえ、この犯人と同級だろ? こいつ、女とかいなかったのかよ?」。デスクに声をかけられたとき、敏は決断した。自分はここにいてはいけない――と。編集部を退職した敏は、京都に落合牧師を訪ねた。牧師は敏の決断を祝福し、そして言うのだった。「あなたをお連れしたいところがある」と。山陰本線の列車に揺られて、牧師が案内したのは、コウノトリが飛び交う山間の里に作られた農場。そこで、敏は見覚えのある顔を発見した。ひとりは、「霧島」で最初の道連れとなった、赤鉢巻の男。そして、反体制フォークのカリスマとなった神村信平。その横で神村の仕事を手伝うポニーテールの女。昌子だった。敏の足も、そして昌子の足も、光の中を駆け出した――。




 半島の南端には、南西の風が吹いていた。
 右手には、富士山をミニチュアにしたような、小ぶりで姿のいい山が、なだらかな稜線を広げていた。
 「母さんは、子どもの頃、よく、自転車を飛ばして、この岬まで遊びに来ていたそうだよ。ここから見る、海の風景が好きで」
 母が生まれ育った家は、その岬を湾の内側へと回り込んだ、かつお漁の基地として有名な街にあった。母の両親は、海沿いのその街で名物の漬物を作る小さな漬物店を営んでいたが、どちらも、すでにこの世にいない。店も人手に渡り、係累も残っていない。
 父が母の魂を里帰りさせても、それを喜んで迎え入れてくれる人間は、もう、この土地には残っていない。
 それでも、母は、息を引き取る間際まで言っていたそうだ。
 「あなたを一度、郷里の海に連れて行きたかった」――と。

        

 コウノトリが飛び交う農場で再会を果たした父と母は、神村信平が司祭を務める農場内の教会で結婚式を挙げ、そのまま、農園に住みついた。
 土に触れ、その土からのめぐみとしての作物を収穫する生活は、父が望んでいた「実の生活」でもあったのだろう。充実した日々の中で、ふたりの間に私が生まれ、「希里」と名づけられた。
 「希里」の音は、「霧島」の「霧」から取ったと聞かされていたが、そこには、「希望の里に生まれた子」という意味も込められていたんだよ――と、旅の道々、父の言葉で知らされた。
 父と母は、幼い私を育てながら、数年間を、その農場で農事作業に従事して過ごした。「希望の里に生まれた子」は、農園のみんなから祝福され、かわいがられたという。
 残念ながら、私には、その記憶がない。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

優秀な男ほど、余韻から覚めるのが早い…!?

手と手 

終わったとたんにTVを点けたがる男と、イヤがる女。
この違いはどこから生まれるのでしょうか?


 性とエッチの《雑学》file.150   R15 
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【今回のキーワード】 射精 脳内麻薬  345
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 (この記事は、本シリーズ―File-14の改訂版です)

 愛し合うベッドの中で、男と女の違いがいちばん顕著に現れるのは、どんな瞬間だと思います?
 実は、男が射精を終えた後――なんですね。
 彼女が絶頂に達したかどうか、という問題もあるのですが、その問題に首を突っ込むとややこしくなるので、ここでは、彼女もカレと同時に果てた、という前提で話を進めます。
 一般に、女性は、うっとりとベッドに横たわったまま、快感の余韻に頬を染め、目を潤ませています。
 一方、男性は、ティッシュで体に付着した精液のぬめりを拭き取ると、まとわりつく彼女の体をベッドに残して立ち上がり、喫煙者であれば、タバコに火を点け、深々と煙を吸い込んで、非喫煙者であれば、飲みかけのビールなどをひと口あおって、TVのリモコンに手を伸ばします。あるいは、スマホの電源を入れて、メールなどをチェックしようとする人もいるかもしれませんが、これも話がややこしくなるので、TVを点けるに絞って、話を進めます。
 その背中に、甘えるような彼女の声が届きます――。

  お願い。まだ、TVつけないで。

 男性とのSEXで、女性が「これだけはやらないで」と挙げるポイントのひとつに、「終わったあと、すぐにTVをつける」というのがあることを、男性のみなさんはご存じでしょうか?
 そういうことをする男性に、女性はこんな感想を抱くのだそうです。

あ、そう。やってしまったら、もう用はないってことなのね。私を愛してなんかいないんだわ。

 さて、これはどっちもどっちの問題である――と、わたくし長住は思います。
 女性は男性の生理を理解してないし、男性は女性の心理を配慮しないがためのスレ違いなんですね。

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「黒」を着たがる女の本心、着せたがる男の本心

女の子ヘッドホン  男の本心・女の本心~29 

なぜか、世の中には、「黒」をファッション・カラーとして
愛用したがる女性たちがいます。世の中を暗くしている
「黒の女」の心には、どんな秘密が隠されているのでしょうか?


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 街を歩いたり、電車に乗ったりしていると思うのですが、ほんと、日本って、ピープルの色が暗いですよね。
 みんな、黒っぽい服を着ているので、なんだか、葬儀会場に来たような気がしてしまいます。
 特に、華やかであるべき年頃の若い女性のファッションの色が暗い――これが、残念でたまりません。
 ほんとは「透明」がいちばんいいんですけど……てのはジョーダンで、もっと赤があったり、黄色があったり、ピンクがあったりしたほうが、街が楽しくなりそうな気がするんですが、どうも、そうはなりそうもない。
 実はこれ、彼女たちの心理状態と関係があるのではないか――と、わたくし長住はニラんでいます。

 「黒」という色については、色彩心理学的にいろいろな解釈が加えられています。
 諸説の中から、特に恋愛に関係あり――と思われる性質をまとめると、こんなところでしょうか。

悪魔女
 黒の心理―1 
何かを恐れる気持ちが強く、その恐れから逃れたい、
または、逆に「自分を強く見せる」ことで、その不安を克服したい。


 恐れる対象は、親であったり、教師であったり、ときには会社や学校、さらには国家という団体であったりします。
 そういう「恐れ」の対象に対して、

自分を隠す……黒を着ることで、自分の「野心」や「いけない心」などを覆い隠す。
服従心・忠誠心を示す……黒を着ることで自分の「反抗心」などを隠し、秩序に服する意思をアピールする。

 などの目的で、「黒」を着用しようとするのだと思われます。

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妻の人数が「投資額」で決まる 《一夫多妻制》


 不純愛トーク   第335夜  
前々回からお届けしている「シェア・スタイル」の問題。今回は、女が複数で「夫をシェア」する 《一夫多妻制》 について、その過去と未来を語ってみます。動物の世界では、遺伝子的理由で始まった 《一夫多妻制》 だが、人間の世界では「経済的理由」が大。この考え方をさらに発展させると――。

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AKI 前回は、「シェア」のいろんな形をご披露いただいたわけですが……。

哲雄 何か、お気に召したプランはございましたでしょうか?

AKI 最後にご提示いただいた「妻共有プラン」なんですけど……。

哲雄 オーッ! 経済的にあるいは体力的に、ひとりでは、とても妻ひとりの面倒がみきれない――という男たちが、2人とか3人とかで妻を共有するっていう、例のプランですね? そうですか、AKIクンも共有されてみたいという気になりましたか?

AKI じゃなくて、その逆はないのかな……って思って。

哲雄 逆? ああ、複数の女でひとりの男を共有するという「シェア」の形ですか? 男の側から言うと、女を複数、囲い込むということですよね?

AKI そういうことになりますか?

哲雄 なりますねェ。でも、この形は、世界中いたるところにあるでしょう、《一夫多妻》 という形ですけど。

AKI ま、そう言えばそうですけど……。でも、《一夫多妻》 っていうのは、経済力のある男が複数の妻を持つ――っていう制度でしょ? 私がお訊きしたいのは……。

哲雄 おっしゃりたいことはわかります。実はね、AKIクン、この 《一夫多妻》 っていうのは、一概には論じられない問題でもあるんです。まず、遺伝子的に言うと、こういうことが言えます。オスは、自分の遺伝子を根絶やしにしないために、できるだけ広範囲に精子をバラ撒いておこうとします。株の投資と同じですね。

AKI リスクを分散するんですね?

哲雄 そうです。手持ちの資金を全部、A社に投資してしまうと、A社株が暴落したとき、取り返しのつかない痛手を負ってしまう。そうならないために、B社、C社の株も買っておこうとしますよね。それと同じ理屈です。

AKI そりゃね、妻だって、いつ病気で倒れるかわからないし、100%、丈夫な子どもを産めるかっていうと、そんな保証もありませんしね。

哲雄 メスのほうにも「打算」があるんですよ。

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終章-さらば霧島。さらば青春〈4〉 愛よ走れ、光の中へ!

後姿 父と母が愛し合った時代へ。感謝をこめて☆ 

落合牧師が案内した無農薬の農場。
そこには、見慣れた顔が3つあった。
ひとつは、「霧島」で最初に出会った赤鉢巻の男。
そして、かつてカリスマだった神村信平。
最後のひとつは――。


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〈4〉 愛よ走れ、光の中へ!

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この話は、「急行霧島」として執筆した作品のリメイク版、連載58回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 父・秋吉敏が、母・昌子と出会ったのは、九州への帰省の列車、急行「霧島」の車内だった。京都のミッション系の女子大に通う女子大生で、鹿児島まで帰省すると言う昌子と、横浜の大学に通い、博多まで帰省する敏。ふたりには、2つの共通点があった。ともに、大学でコーラス・サークルに所属していたこと。もうひとつは、クリスチャンである、ということだった。意気投合したふたりは、春休みにまた、「霧島」で会おうと約束を交わす。父によれば、その頃の若者は、「政治的」か「非政治的(ノンポリ)」かのどちらかだったと言う。父と母は、その中間にいて「良心的な声」を挙げようとするグループに属していた。昌子は、通っているリベラル派の教会の牧師とともに、大阪のドヤ街で奉仕活動を続けていたが、交流するK大の合唱部には、そんな活動は自己満足にすぎない――と、政治思想を吹き込む男がいた。その年の夏休み、敏のY大グリークラブは、演奏旅行の最終日、京都で、昌子が所属するK女子大フローラル・コールとジョイントすることになった。京都で現地解散となる敏に、昌子は「京都で一泊しようよ」と提案した。昌子が「きょうの民宿のおじさん」と敏に紹介したのは、K大の学生寮に住む高城という男だった。人民を解放するためには武装闘争も必要だと言う高城は、火炎瓶もその手段のひとつになると主張。敏は、手段を誤った闘争からは、真の解放は得られないと反論した。翌日、「思索の道」を散策しながら、昌子は敏に訊いた。「愛に思想は必要だと思うか?」。敏の答えは、「愛にこそ思想が必要」だった。その年の10月8日、その出来事は起こった。ヘルメットを被り、角材を手にした学生たちが機動隊の壁に突進していく映像がニュースで流れると、翌日から、キャンパスの空気が一変した。その秋に開かれた「大学キリスト者全国協議会」に関東代表として出席した敏は、そこに、思いもしない姿を発見した。関西代表として参加した昌子と、彼女が通う教会からオブザーバーとして参加した落合牧師。会議は、「共産主義の悪魔と闘うアメリカの若者のために祈ろう」という「保守派」と、「殺されていくベトナムの人々のためにも祈るべき」と主張する「リベラル派」の対決で紛糾した。最終日の夜は、焚火を囲んでの祈祷会になった。「無力な私たちに勇気と知恵を」。昌子の祈りを「美しい」と感じている敏に、落合牧師がささやいた。「彼女を守ってあげてくださいね」。その年のクリスマス、敏たち関東組は、「ベトナムに平和を」をテーマに、集会とデモを計画し、昌子たち関西組は、大阪で「24時間キャンドル・サービス for ベトナム」を企画した。行動は別々だったが、ふたりは「小さな約束」を実行した。「ベトナムに平和を」と祈りながら、その中でちょっぴり、おたがいの心の平和も祈る、という約束だった。その年の年末、昌子たちの教会で行われるチャリティのカウントダウンに参加するために、敏は教会を訪ねた。教会の屋根の十字架を磨くというワークを果たして、その夜、敏が教会の屋根裏部屋で寝ていると、昌子が布団の中に忍んできた。「愛してる」と告白し、無知な体を重ね合ったふたり。結ばれた瞬間、ふたりは耳の奥で、教会のオルガンが奏でる讃美歌を聴いたような気がした。年が明けると、東大紛争が勃発した。時代は、激しく変化していた。そんな時代が、「おまえはどうする?」と問いかけてくる。春休み前に、父も母もコーラスを辞めた。忍び寄る政治の季節が、ふたりに歌を捨てさせた。その春、東大の紛争は全学ストに拡大し、日大では「全共闘」が結成されて、全学がバリケード封鎖された。そんなとき、昌子から一通の手紙が届いた。東京で「フォーク・コンサート」を開くことになった。できれば、2、3日、「あなたの部屋に泊めてほしい」と言うのだった。「平和を叫ぶ」と銘打ったコンサートは、関西で産声を挙げた「プロテスト・ソング」の旗手、神村信平の東京デビューでもあった。成功裏のうちにコンサートを終えた昌子は、敏の下宿にやって来た。目の前の運河の臭いが立ち込める敏の四畳半。ふたりは、そんな部屋で汗に濡れた体を重ね合い、昌子は、ピアニッシモで歓喜の声を漏らした。翌日、「東大を見てみたい」と言う昌子を敏は本郷へ案内した。安田講堂がバリケード封鎖されたばかりの東大では、全共闘が結成され、それを支援する各党派の旗が林立していた。その光景に目を見張っていると、「キミらも支援に来たのか?」と声がした。K大の寮で敏に武装闘争を熱く説いた高城だった。そして、もうひとり、キリスト教系学生組織のメンバーで、原理主義一派と共に闘った野本もいた。ふたりの案内でバリケードの中を見学した敏たちに野本が言った。「じきに、キミたちのキャンパスでも、ここと同じことが起こる。キミたちはキミたちの場所で、自分たちの行動を選んでくれ」。翌日、昌子を横浜の街に連れ出した敏だったが、その財布は底をつきかけていた。ふたりは、残りの数日間を自炊で過ごすことにした。昼間は横浜の街をブラつき、電熱器で炊いたご飯で自炊。夜になれば、ひとつ布団で肌を寄せ合う。それは、束の間の幸せな日々だった。その幸せな夏の日の後にやって来たのは、「流血の秋」だった。10・21「国際反戦デー」の街頭行動では、1000人近い逮捕者が出た。敏も、昌子も、迷っていた。「敵のためにさえ祈れ」という聖書の教えは、ほんとうに正しいのだろうか? その秋、敏たちは新たな難題に立ち向かうことになった。靖国神社を国家護持しようという動きだった。これだけは阻止しなくてはならない。熱く語り合う敏たち。しかし、その席に昌子の姿はなかった。昌子たちのキャンパスでも学園紛争が勃発し、昌子は闘争委員として、学園問題にかかりきりになっている、というのだった。敏は昌子を見守るためにも、落合牧師たちが計画している年末のフォーク集会に、参加する意思を固めた。その主役は、『あなたに』が東京の深夜放送でも流されるようになった神村信平だった。「信平さん、メジャー・デビューするんよ」とうれしそうに語る昌子の横で、浮かない顔の信平。フォーク集会の翌日、敏と信平は、一緒に教会の屋根に登った。そこで敏は信平から思わぬ告白を受けた。「ホレてたんや」と、信平は敏の体を後ろから小突き、そして言うのだった。「昌ちゃんを守ったってや」と。まっすぐな昌子が、時代の風に翻弄されないように……というのだ。冬休みが明けると、東大の安田講堂が落ちた。しかし、その炎は全国のキャンパスに広がり、敏のY大でも「全共闘」が結成された。敏は青いヘルメットを被り、昌子は赤を被って、全共闘に加わり、デモに参加した。そんな中、昌子の手紙がある決断を伝えてきた。「新橋へ行きます」と言うのだった。4・28沖縄デー。その日、敏は青を、昌子は赤を被って、それぞれの隊列に加わり、東京駅に集結して、高架上を新橋へ進撃した。青の部隊は、地上に降りた途端、機動隊のガス銃に一斉水平射撃を浴びて、隊列を崩し、赤の部隊は、高架の上で機動隊の挟撃に遭い、追い詰められた学生たちが、バラバラと地上に落ちてきた。銃撃に慄いた敏の足は、新橋の路上を走った。みっともない敗走だった。なんとか横浜に帰り着くと、橋のたもとにうずくまっている人影があった。昌子だった。その体は傷だらけだった。昌子は高架上で機動隊員に引きずり倒されたところを、何とか逃げてきたという。ボロボロに裂けたTシャツは胸元まで破けていた。このままでは帰れないという昌子に、敏は自分の黄色いTシャツを貸した。それでも、全共闘運動は、全国に広がる気配を見せていた。そんな中で、新宿の西口広場で神村信平たちがフォーク集会を開くという。知らせてきたのは、落合牧師だった。昌子からは、何の報せもない、連絡も取れない。何があったのか? その夏休み、敏は、帰省の「霧島」を京都で途中下車した。しかし、落合牧師も、昌子の消息を案じていた。もう、あの男に訊くしかない。K大の寮に訪ねた高城は、いきなり、「カンニンしてくれ」と、敏の前で土下座した。その口から語られたのは、想像した中でも最悪の事態だった。スト支援のために訪れたS大学で、高城たちは右翼学生の襲撃を受け、逃げ遅れた昌子が右翼学生たちに拉致された。発見されたのは、ズタズタに引き裂かれ、血が滲んだTシャツ。それ以来、昌子の消息が知れないというのだった。全共闘運動は数的な盛り上がりを見せ、過激各派は「秋の決戦」を叫んでいたが、敏の胸からは、急速にパトスが失われていった。未曾有の逮捕者を出して、70年安保闘争が終結すると、敏は学園を卒業して、産声を挙げたばかりの女性雑誌の編集部に就職した。その数年後、あの山荘立てこもり事件が起きた。地下に潜った過激派セクトのひとつが起こした事件だった。「おまえ、この犯人と同級だろ? こいつ、女とかいなかったのかよ?」。デスクに声をかけられたとき、敏は決断した。自分はここにいてはいけない――と。編集部を退職した敏は、京都に落合牧師を訪ねた。牧師は敏の決断を祝福し、そして言うのだった。「あなたをお連れしたいところがある」と。山陰本線の列車に揺られて、牧師が案内したのは、コウノトリが飛び交う山間の里に作られた農場。そこで、敏は見覚えのある顔を発見した――。




 「ここにも、小さな教会があるんですよ」
 落合牧師は、屋根に十字架のある木造の建物に向かって、歩を進めた。
 「もしかして、この教会、牧師が……?」
 「いえいえ。さすがに、ここまで通うのはムリです。ここは、農園で働くみなさんの集会場として建てられたんですが、日曜日には、礼拝も行うので、集会場兼礼拝堂という感じで使ってるようですよ。ここには、由緒正しい牧師さんが、ちゃんといらっしゃいますから」

 牧師の説明を受けながら、建物の前まで来たときだった。
 「おーい、兄ちゃん。やっばり、兄ちゃんや。あのときの兄ちゃんやないか」
 後ろから敏たちを追いかけてきた足音が、敏の前に回り込み、顔をのぞき込むようにして言った。
 さっき、トマトの畑で「あれ……?」という顔をした男だった。

 「ホラ、兄ちゃん。霧島の中で、兄ちゃんの彼女にミカンもろた……」
 「あっ……」と声を挙げた。
 「あの、赤鉢巻の……」
 「そうや。赤鉢巻のおっちゃんや」

 言いながら、男は尻のポケットに挟み込んでいた赤いタオルを引っ張り出してブラブラさせて見せると、そのタオルをぶら下げたままの手で、敏の手を握りしめてきた。
 ゴツゴツした労働の手が、敏の手を力いっぱい、両手で握り締めてくる。敏も、その手を力いっぱい握り返した。

 「西成でなぁ、あのときの姉ちゃんが、そらもう熱心に、ワシをここへ誘うてくれたんや」
 「エッ……!?」と牧師を振り返ると、牧師はウンウンとうなずいてみせた。
 「ここに、昌子も……? いま、昌子クンは、ここにいるんですか?」
 「秋吉クン。実はここは、神村クンたちが始めた農場なんですよ。ボロボロになっていた昌子クンに神村クンが声をかけて、ここで働いてみないか――と、お誘いしたようです」
 「それ、いつのことですか?」
 「あなたが出版社に就職して2年目になった……そう、ちょうど、例の山荘の事件が起こった頃でしたかね」
 「エッ、そ、それ……どうして?」
 「どうして報せてくれなかったか――ですか?」
 「別に、責めてはいませんけど……」
 「本人に口止めされてました。まだ、秋吉クンには報せないでほしい……と」

 山荘立てこもり事件から、すでに3年余りが経過していた。
 あのTV報道を見ながら退職を決意し、実際に退職するまでにそれくらいの時間がかかったということだが、昌子も同じぐらいの時間をこの農場で過ごしていた――ということになる。
 なぜ、昌子も、落合牧師も、それを自分に報せようとしなかったのか?

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終章-さらば霧島。さらば青春〈3〉 コウノトリの里へ

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「あなたをお連れしたいところがある」
そう切り出した落合牧師は、4日目の朝、
まるで発掘にでも出かける格好で、敏を誘った。
山陰本線の列車に揺られて着いたのは、
コウノトリが飛び交う田園地帯だった――。


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〈3〉 コウノトリの里へ

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この話は、「急行霧島」として執筆した作品のリメイク版、連載57回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 父・秋吉敏が、母・昌子と出会ったのは、九州への帰省の列車、急行「霧島」の車内だった。京都のミッション系の女子大に通う女子大生で、鹿児島まで帰省すると言う昌子と、横浜の大学に通い、博多まで帰省する敏。ふたりには、2つの共通点があった。ともに、大学でコーラス・サークルに所属していたこと。もうひとつは、クリスチャンである、ということだった。意気投合したふたりは、春休みにまた、「霧島」で会おうと約束を交わす。父によれば、その頃の若者は、「政治的」か「非政治的(ノンポリ)」かのどちらかだったと言う。父と母は、その中間にいて「良心的な声」を挙げようとするグループに属していた。昌子は、通っているリベラル派の教会の牧師とともに、大阪のドヤ街で奉仕活動を続けていたが、交流するK大の合唱部には、そんな活動は自己満足にすぎない――と、政治思想を吹き込む男がいた。その年の夏休み、敏のY大グリークラブは、演奏旅行の最終日、京都で、昌子が所属するK女子大フローラル・コールとジョイントすることになった。京都で現地解散となる敏に、昌子は「京都で一泊しようよ」と提案した。昌子が「きょうの民宿のおじさん」と敏に紹介したのは、K大の学生寮に住む高城という男だった。人民を解放するためには武装闘争も必要だと言う高城は、火炎瓶もその手段のひとつになると主張。敏は、手段を誤った闘争からは、真の解放は得られないと反論した。翌日、「思索の道」を散策しながら、昌子は敏に訊いた。「愛に思想は必要だと思うか?」。敏の答えは、「愛にこそ思想が必要」だった。その年の10月8日、その出来事は起こった。ヘルメットを被り、角材を手にした学生たちが機動隊の壁に突進していく映像がニュースで流れると、翌日から、キャンパスの空気が一変した。その秋に開かれた「大学キリスト者全国協議会」に関東代表として出席した敏は、そこに、思いもしない姿を発見した。関西代表として参加した昌子と、彼女が通う教会からオブザーバーとして参加した落合牧師。会議は、「共産主義の悪魔と闘うアメリカの若者のために祈ろう」という「保守派」と、「殺されていくベトナムの人々のためにも祈るべき」と主張する「リベラル派」の対決で紛糾した。最終日の夜は、焚火を囲んでの祈祷会になった。「無力な私たちに勇気と知恵を」。昌子の祈りを「美しい」と感じている敏に、落合牧師がささやいた。「彼女を守ってあげてくださいね」。その年のクリスマス、敏たち関東組は、「ベトナムに平和を」をテーマに、集会とデモを計画し、昌子たち関西組は、大阪で「24時間キャンドル・サービス for ベトナム」を企画した。行動は別々だったが、ふたりは「小さな約束」を実行した。「ベトナムに平和を」と祈りながら、その中でちょっぴり、おたがいの心の平和も祈る、という約束だった。その年の年末、昌子たちの教会で行われるチャリティのカウントダウンに参加するために、敏は教会を訪ねた。教会の屋根の十字架を磨くというワークを果たして、その夜、敏が教会の屋根裏部屋で寝ていると、昌子が布団の中に忍んできた。「愛してる」と告白し、無知な体を重ね合ったふたり。結ばれた瞬間、ふたりは耳の奥で、教会のオルガンが奏でる讃美歌を聴いたような気がした。年が明けると、東大紛争が勃発した。時代は、激しく変化していた。そんな時代が、「おまえはどうする?」と問いかけてくる。春休み前に、父も母もコーラスを辞めた。忍び寄る政治の季節が、ふたりに歌を捨てさせた。その春、東大の紛争は全学ストに拡大し、日大では「全共闘」が結成されて、全学がバリケード封鎖された。そんなとき、昌子から一通の手紙が届いた。東京で「フォーク・コンサート」を開くことになった。できれば、2、3日、「あなたの部屋に泊めてほしい」と言うのだった。「平和を叫ぶ」と銘打ったコンサートは、関西で産声を挙げた「プロテスト・ソング」の旗手、神村信平の東京デビューでもあった。成功裏のうちにコンサートを終えた昌子は、敏の下宿にやって来た。目の前の運河の臭いが立ち込める敏の四畳半。ふたりは、そんな部屋で汗に濡れた体を重ね合い、昌子は、ピアニッシモで歓喜の声を漏らした。翌日、「東大を見てみたい」と言う昌子を敏は本郷へ案内した。安田講堂がバリケード封鎖されたばかりの東大では、全共闘が結成され、それを支援する各党派の旗が林立していた。その光景に目を見張っていると、「キミらも支援に来たのか?」と声がした。K大の寮で敏に武装闘争を熱く説いた高城だった。そして、もうひとり、キリスト教系学生組織のメンバーで、原理主義一派と共に闘った野本もいた。ふたりの案内でバリケードの中を見学した敏たちに野本が言った。「じきに、キミたちのキャンパスでも、ここと同じことが起こる。キミたちはキミたちの場所で、自分たちの行動を選んでくれ」。翌日、昌子を横浜の街に連れ出した敏だったが、その財布は底をつきかけていた。ふたりは、残りの数日間を自炊で過ごすことにした。昼間は横浜の街をブラつき、電熱器で炊いたご飯で自炊。夜になれば、ひとつ布団で肌を寄せ合う。それは、束の間の幸せな日々だった。その幸せな夏の日の後にやって来たのは、「流血の秋」だった。10・21「国際反戦デー」の街頭行動では、1000人近い逮捕者が出た。敏も、昌子も、迷っていた。「敵のためにさえ祈れ」という聖書の教えは、ほんとうに正しいのだろうか? その秋、敏たちは新たな難題に立ち向かうことになった。靖国神社を国家護持しようという動きだった。これだけは阻止しなくてはならない。熱く語り合う敏たち。しかし、その席に昌子の姿はなかった。昌子たちのキャンパスでも学園紛争が勃発し、昌子は闘争委員として、学園問題にかかりきりになっている、というのだった。敏は昌子を見守るためにも、落合牧師たちが計画している年末のフォーク集会に、参加する意思を固めた。その主役は、『あなたに』が東京の深夜放送でも流されるようになった神村信平だった。「信平さん、メジャー・デビューするんよ」とうれしそうに語る昌子の横で、浮かない顔の信平。フォーク集会の翌日、敏と信平は、一緒に教会の屋根に登った。そこで敏は信平から思わぬ告白を受けた。「ホレてたんや」と、信平は敏の体を後ろから小突き、そして言うのだった。「昌ちゃんを守ったってや」と。まっすぐな昌子が、時代の風に翻弄されないように……というのだ。冬休みが明けると、東大の安田講堂が落ちた。しかし、その炎は全国のキャンパスに広がり、敏のY大でも「全共闘」が結成された。敏は青いヘルメットを被り、昌子は赤を被って、全共闘に加わり、デモに参加した。そんな中、昌子の手紙がある決断を伝えてきた。「新橋へ行きます」と言うのだった。4・28沖縄デー。その日、敏は青を、昌子は赤を被って、それぞれの隊列に加わり、東京駅に集結して、高架上を新橋へ進撃した。青の部隊は、地上に降りた途端、機動隊のガス銃に一斉水平射撃を浴びて、隊列を崩し、赤の部隊は、高架の上で機動隊の挟撃に遭い、追い詰められた学生たちが、バラバラと地上に落ちてきた。銃撃に慄いた敏の足は、新橋の路上を走った。みっともない敗走だった。なんとか横浜に帰り着くと、橋のたもとにうずくまっている人影があった。昌子だった。その体は傷だらけだった。昌子は高架上で機動隊員に引きずり倒されたところを、何とか逃げてきたという。ボロボロに裂けたTシャツは胸元まで破けていた。このままでは帰れないという昌子に、敏は自分の黄色いTシャツを貸した。それでも、全共闘運動は、全国に広がる気配を見せていた。そんな中で、新宿の西口広場で神村信平たちがフォーク集会を開くという。知らせてきたのは、落合牧師だった。昌子からは、何の報せもない、連絡も取れない。何があったのか? その夏休み、敏は、帰省の「霧島」を京都で途中下車した。しかし、落合牧師も、昌子の消息を案じていた。もう、あの男に訊くしかない。K大の寮に訪ねた高城は、いきなり、「カンニンしてくれ」と、敏の前で土下座した。その口から語られたのは、想像した中でも最悪の事態だった。スト支援のために訪れたS大学で、高城たちは右翼学生の襲撃を受け、逃げ遅れた昌子が右翼学生たちに拉致された。発見されたのは、ズタズタに引き裂かれ、血が滲んだTシャツ。それ以来、昌子の消息が知れないというのだった。全共闘運動は数的な盛り上がりを見せ、過激各派は「秋の決戦」を叫んでいたが、敏の胸からは、急速にパトスが失われていった。未曾有の逮捕者を出して、70年安保闘争が終結すると、敏は学園を卒業して、産声を挙げたばかりの女性雑誌の編集部に就職した。その数年後、あの山荘立てこもり事件が起きた。地下に潜った過激派セクトのひとつが起こした事件だった。「おまえ、この犯人と同級だろ? こいつ、女とかいなかったのかよ?」。デスクに声をかけられたとき、敏は決断した。自分はここにいてはいけない――と。編集部を退職した敏は、京都に落合牧師を訪ねた。牧師は敏の決断を祝福し、そして言うのだった。「あなたをお連れしたいところがある」と――。




 4日目の朝、朝食を終えると、落合牧師が「さて」と声をかけてきた。
 見ると、チノパンにニットのプルオーバー、頭にチューリップ・ハットを被り、肩からはショルダーバッグ……と、何やら遠出の雰囲気である。

 「ちょっと出かけましょうか、秋吉クン」
 「その格好じゃ、ちょっとそこまで……って雰囲気じゃなさそうですね。まさか、遺跡の発掘とか……?」
 「遺跡になるには、ちょっと早すぎるでしょうねぇ」
 「昆虫採集というわけでも、もちろんありませんよね」
 「あなたが九州にお帰りになる前に、ご案内しておきたいところがあるんです。もしかしたら、これからのあなたの人生を考える上で、少しは参考になるかもしれないと思いまして……」

 何かワケがありそうなので、行き先については、それ以上、尋ねないことにした。
 そのときの落合牧師は、敏には、モーセにも負けない預言者のように見えた。
 預言者の導きには黙って従うのみ――と、荷物をまとめ、牧師夫人に宿泊のお礼を言って、教会を後にした。

        

 牧師の「ちょっと」は、かなりな「ちょっと」だった。
 京都駅から山陰本線に乗って、列車に揺られること2時間強。慣れ親しんだ山陽本線とは違う、どこかのどかな山と田園の風景の中を走っているうちに、敏は少しずつ「虚」な世界から引き離されていくような気がした。
 山間の小さな畑にも、そこに張り付いて土を耕し、けっしてあり余るほどではない実りを収穫して暮らしている人たちがいる。その畑と山肌の間を縫うように走る曲がりくねった道を、リヤカーを押して苗や収穫した作物や肥料や……を運ぶ労働の姿がある。そのリヤカーの後を笑い転げながら追う子どもたちの姿がある。
 「虚」ではない「実」な暮らしの姿が、次から次に、車窓に映る。
 車内で読もうと手にしていたポール・ニザンの『アデン・アラビア』に目を落としながら、そんな風景に見とれている敏の前で、牧師は、バルトの『ロマ書新解』を読んでいた。ほんとに読んでいるのかどうかはわからなかったが、時折、目を上げてボクと目が合うと、意味もなくウンウン……とうなずき、「よかったらどうぞ」と、ジャーの中に入れてきた熱いコーヒーをカップに注いですすめてくれた。
 こんな小旅行のためにさえ、ジャーに温かいコーヒーを用意して持ってくる。
 生活しているとは、こういうことだよな――と思って、思わず顔が緩んだ。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

ほんとに効く、カレ・彼女への「ガツン」の言い方

手と手

これ以上、黙ってられない。ここは一発、ガツンと言わなくちゃ。
そんな瞬間が、男にも女にもあると思います。そんなとき、
どんな言い方をすれば効果的か――を考えてみたいと思います。


 愛の会話力レッスン   レッスン51(改訂版) 
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 たとえば、あなたのカレ(彼女)または夫(妻)、あるいは恋愛・結婚を「視野」に入れて観察接近中の男(女)が、あなたの意に染まないことを繰り返し、あなたの忍耐が限界に達したとします。
 黙って別れる、消え去る、会わなくなる――というのも、ひとつの選択肢かもしれませんが、まだ、そんな段階ではない。
 と言って、このままガマンしているだけでは、あなたのストレスは限界に達しそうだし、ふたりの関係だって、けっしていい方向には進まないだろうと思われる。

 ここは、一発、ガツーン! といかなくちゃ。

 今回は、この「ガツーン!」について、文学的・人類学的考察を加えてみたい、と思うのであります。

 たとえば、何度待ち合わせしても、当然のように時間に遅れてくるカレまたは彼女に、あなたが「ガツン」といくシーンを想像してみましょう。
 あり得る「ガツン・パターン」は、おおむね、次の4種かと思われます。
 (ここでは、女性が男性に「ガツン!」とやっているパータンをご紹介しますが、これは、男性が女性に向かって言う場合も同様、とお考えください)

パターンA
こんなとこで人を30分も待たせてッ! 何分待たせれば気がすむの? もぉ、頭に来た! わたし、帰る!

パターンB
時間を守るって、人間として最低限のルールじゃない! なんで、そんなことが守れないの? いったい、どんな教育受けてきたのよッ!

パターンC
もう、私のことなんか、どうでもいいと思ってるのね。こんなところでひとりで待ってる私が、心配じゃなかった? だれか知らない男にからまれるかもしれない――とか思わなかった? 悲しくなっちゃったよ、わたし。

パターンD
あと10分待ったら、あなたを嫌いになるところだったわ。お願いだから、「嫌い」になんかさせないでね。

 あなただったら、パターンAパターンDのどのパターンで言われたときが、いちばん心に響き、「もう遅刻するのは止めよう」と思うでしょう?
 筆者は、圧倒的に パターンD なんですが、その理由も含めて、それぞれの言い方の心理的意味と相手に与える効果を考えてみましょう。

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彼女の「栗」は、皮をむいて召し上がれ!

手と手 

彼女の「宝石」は、包皮で覆われています。
その皮を上手にむく方法、あなたはご存じですか?


 性とエッチの《雑学》file.149   R15 
このシリーズは真面目に「性」を取り上げるシリーズです。15歳未満の方はご退出ください。

【今回のキーワード】 クリトリス 包茎  345
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 リンゴは皮のまま、ガブリと食べてもいい。
 しかし、栗は、皮のまま――というわけにもいかない。
 できれば、クリッ……と皮をむいて食べたい。
 本日は、そんな話をしてみたいと思います。

 申し遅れましたが、「」というのは、「クリ」のこと。女性が、その柔肌の奥に、ひっそりと隠し持っている気持ちのいい器官、「クリトリス」のことです。
 日本語では、「さね」と呼ばれることもあり、西洋の魔女裁判では「悪魔の乳首」などと呼ばれたりもしましたが、学術的には「陰核」と称され、文学的に表現するときには、「彼女の敏感なベル」などと表したり(筆者の場合)する器官のことです。
 しかし、この「クリトリス」という器官、ビギナー・クラスの男性の中には、それがどこにあるのかさえ知らない――という人が多いようです。
 前回は、その場所を「発見」する方法、カレの手をそこへいざなう方法などについて、解説しました。

  まだ、お読みでない方は、下記の記事をどうぞ。
   「無関心なカレの手をクリトリスへいざなう方法」

 さて、今回は、その「栗の皮」をむく方法についてお話をしたいと思うわけですが、「皮をむく」と言うと、「エッ、あれって、皮かぶってるの?」と、驚く方もいらっしゃるかもしれません。
 まずは、そこから話を始めましょう。

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終章-さらば霧島。さらば青春〈2〉 牧師館にて

後姿 父と母が愛し合った時代へ。感謝をこめて☆ 

編集部を辞めた敏は、京都に
落合牧師を訪ねた。虚の世界を辞めて、
実の世界に生きたい――という敏の決断を
牧師は、祝福して言うのだった。
「あなたをお連れしたいところがある」と――。


 愛を駆ける急行   終章 さらば霧島。さらば青春 
〈2〉 牧師館にて

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この話は、「急行霧島」として執筆した作品のリメイク版、連載56回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 父・秋吉敏が、母・昌子と出会ったのは、九州への帰省の列車、急行「霧島」の車内だった。京都のミッション系の女子大に通う女子大生で、鹿児島まで帰省すると言う昌子と、横浜の大学に通い、博多まで帰省する敏。ふたりには、2つの共通点があった。ともに、大学でコーラス・サークルに所属していたこと。もうひとつは、クリスチャンである、ということだった。意気投合したふたりは、春休みにまた、「霧島」で会おうと約束を交わす。父によれば、その頃の若者は、「政治的」か「非政治的(ノンポリ)」かのどちらかだったと言う。父と母は、その中間にいて「良心的な声」を挙げようとするグループに属していた。昌子は、通っているリベラル派の教会の牧師とともに、大阪のドヤ街で奉仕活動を続けていたが、交流するK大の合唱部には、そんな活動は自己満足にすぎない――と、政治思想を吹き込む男がいた。その年の夏休み、敏のY大グリークラブは、演奏旅行の最終日、京都で、昌子が所属するK女子大フローラル・コールとジョイントすることになった。京都で現地解散となる敏に、昌子は「京都で一泊しようよ」と提案した。昌子が「きょうの民宿のおじさん」と敏に紹介したのは、K大の学生寮に住む高城という男だった。人民を解放するためには武装闘争も必要だと言う高城は、火炎瓶もその手段のひとつになると主張。敏は、手段を誤った闘争からは、真の解放は得られないと反論した。翌日、「思索の道」を散策しながら、昌子は敏に訊いた。「愛に思想は必要だと思うか?」。敏の答えは、「愛にこそ思想が必要」だった。その年の10月8日、その出来事は起こった。ヘルメットを被り、角材を手にした学生たちが機動隊の壁に突進していく映像がニュースで流れると、翌日から、キャンパスの空気が一変した。その秋に開かれた「大学キリスト者全国協議会」に関東代表として出席した敏は、そこに、思いもしない姿を発見した。関西代表として参加した昌子と、彼女が通う教会からオブザーバーとして参加した落合牧師。会議は、「共産主義の悪魔と闘うアメリカの若者のために祈ろう」という「保守派」と、「殺されていくベトナムの人々のためにも祈るべき」と主張する「リベラル派」の対決で紛糾した。最終日の夜は、焚火を囲んでの祈祷会になった。「無力な私たちに勇気と知恵を」。昌子の祈りを「美しい」と感じている敏に、落合牧師がささやいた。「彼女を守ってあげてくださいね」。その年のクリスマス、敏たち関東組は、「ベトナムに平和を」をテーマに、集会とデモを計画し、昌子たち関西組は、大阪で「24時間キャンドル・サービス for ベトナム」を企画した。行動は別々だったが、ふたりは「小さな約束」を実行した。「ベトナムに平和を」と祈りながら、その中でちょっぴり、おたがいの心の平和も祈る、という約束だった。その年の年末、昌子たちの教会で行われるチャリティのカウントダウンに参加するために、敏は教会を訪ねた。教会の屋根の十字架を磨くというワークを果たして、その夜、敏が教会の屋根裏部屋で寝ていると、昌子が布団の中に忍んできた。「愛してる」と告白し、無知な体を重ね合ったふたり。結ばれた瞬間、ふたりは耳の奥で、教会のオルガンが奏でる讃美歌を聴いたような気がした。年が明けると、東大紛争が勃発した。時代は、激しく変化していた。そんな時代が、「おまえはどうする?」と問いかけてくる。春休み前に、父も母もコーラスを辞めた。忍び寄る政治の季節が、ふたりに歌を捨てさせた。その春、東大の紛争は全学ストに拡大し、日大では「全共闘」が結成されて、全学がバリケード封鎖された。そんなとき、昌子から一通の手紙が届いた。東京で「フォーク・コンサート」を開くことになった。できれば、2、3日、「あなたの部屋に泊めてほしい」と言うのだった。「平和を叫ぶ」と銘打ったコンサートは、関西で産声を挙げた「プロテスト・ソング」の旗手、神村信平の東京デビューでもあった。成功裏のうちにコンサートを終えた昌子は、敏の下宿にやって来た。目の前の運河の臭いが立ち込める敏の四畳半。ふたりは、そんな部屋で汗に濡れた体を重ね合い、昌子は、ピアニッシモで歓喜の声を漏らした。翌日、「東大を見てみたい」と言う昌子を敏は本郷へ案内した。安田講堂がバリケード封鎖されたばかりの東大では、全共闘が結成され、それを支援する各党派の旗が林立していた。その光景に目を見張っていると、「キミらも支援に来たのか?」と声がした。K大の寮で敏に武装闘争を熱く説いた高城だった。そして、もうひとり、キリスト教系学生組織のメンバーで、原理主義一派と共に闘った野本もいた。ふたりの案内でバリケードの中を見学した敏たちに野本が言った。「じきに、キミたちのキャンパスでも、ここと同じことが起こる。キミたちはキミたちの場所で、自分たちの行動を選んでくれ」。翌日、昌子を横浜の街に連れ出した敏だったが、その財布は底をつきかけていた。ふたりは、残りの数日間を自炊で過ごすことにした。昼間は横浜の街をブラつき、電熱器で炊いたご飯で自炊。夜になれば、ひとつ布団で肌を寄せ合う。それは、束の間の幸せな日々だった。その幸せな夏の日の後にやって来たのは、「流血の秋」だった。10・21「国際反戦デー」の街頭行動では、1000人近い逮捕者が出た。敏も、昌子も、迷っていた。「敵のためにさえ祈れ」という聖書の教えは、ほんとうに正しいのだろうか? その秋、敏たちは新たな難題に立ち向かうことになった。靖国神社を国家護持しようという動きだった。これだけは阻止しなくてはならない。熱く語り合う敏たち。しかし、その席に昌子の姿はなかった。昌子たちのキャンパスでも学園紛争が勃発し、昌子は闘争委員として、学園問題にかかりきりになっている、というのだった。敏は昌子を見守るためにも、落合牧師たちが計画している年末のフォーク集会に、参加する意思を固めた。その主役は、『あなたに』が東京の深夜放送でも流されるようになった神村信平だった。「信平さん、メジャー・デビューするんよ」とうれしそうに語る昌子の横で、浮かない顔の信平。フォーク集会の翌日、敏と信平は、一緒に教会の屋根に登った。そこで敏は信平から思わぬ告白を受けた。「ホレてたんや」と、信平は敏の体を後ろから小突き、そして言うのだった。「昌ちゃんを守ったってや」と。まっすぐな昌子が、時代の風に翻弄されないように……というのだ。冬休みが明けると、東大の安田講堂が落ちた。しかし、その炎は全国のキャンパスに広がり、敏のY大でも「全共闘」が結成された。敏は青いヘルメットを被り、昌子は赤を被って、全共闘に加わり、デモに参加した。そんな中、昌子の手紙がある決断を伝えてきた。「新橋へ行きます」と言うのだった。4・28沖縄デー。その日、敏は青を、昌子は赤を被って、それぞれの隊列に加わり、東京駅に集結して、高架上を新橋へ進撃した。青の部隊は、地上に降りた途端、機動隊のガス銃に一斉水平射撃を浴びて、隊列を崩し、赤の部隊は、高架の上で機動隊の挟撃に遭い、追い詰められた学生たちが、バラバラと地上に落ちてきた。銃撃に慄いた敏の足は、新橋の路上を走った。みっともない敗走だった。なんとか横浜に帰り着くと、橋のたもとにうずくまっている人影があった。昌子だった。その体は傷だらけだった。昌子は高架上で機動隊員に引きずり倒されたところを、何とか逃げてきたという。ボロボロに裂けたTシャツは胸元まで破けていた。このままでは帰れないという昌子に、敏は自分の黄色いTシャツを貸した。それでも、全共闘運動は、全国に広がる気配を見せていた。そんな中で、新宿の西口広場で神村信平たちがフォーク集会を開くという。知らせてきたのは、落合牧師だった。昌子からは、何の報せもない、連絡も取れない。何があったのか? その夏休み、敏は、帰省の「霧島」を京都で途中下車した。しかし、落合牧師も、昌子の消息を案じていた。もう、あの男に訊くしかない。K大の寮に訪ねた高城は、いきなり、「カンニンしてくれ」と、敏の前で土下座した。その口から語られたのは、想像した中でも最悪の事態だった。スト支援のために訪れたS大学で、高城たちは右翼学生の襲撃を受け、逃げ遅れた昌子が右翼学生たちに拉致された。発見されたのは、ズタズタに引き裂かれ、血が滲んだTシャツ。それ以来、昌子の消息が知れないというのだった。全共闘運動は数的な盛り上がりを見せ、過激各派は「秋の決戦」を叫んでいたが、敏の胸からは、急速にパトスが失われていった。未曾有の逮捕者を出して、70年安保闘争が終結すると、敏は学園を卒業して、産声を挙げたばかりの女性雑誌の編集部に就職した。その数年後、あの山荘立てこもり事件が起きた。地下に潜った過激派セクトのひとつが起こした事件だった。「おまえ、この犯人と同級だろ? こいつ、女とかいなかったのかよ?」。デスクに声をかけられたとき、敏は決断した。自分はここにいてはいけない――。




 「やぁ、やぁ。神の国へようこそ」

 教会裏手の牧師館を訪ねると、少しおっさんっぽくなった落合牧師が、両手を広げて、いきなりハグしてきた。
 抱きしめる腕の力が、少しやわらかくなったような気がする。
 落合牧師も、それなりにオヤジになったのか――と思っていると、奥から牧師夫人が現れた。その胸に、産着にくるまれた小さな存在がある。牧師夫人は、その小さな生命の手をとると、それを持ち上げて、「いらっちゃ~い」と振って見せた。

 「なるほど。それで、神の国ですか?」
 「いやいや、だれでも、私の名を唱えるものが2人、3人と集まれば、そこが神の国である――なんてね。ま、聖書にはそう書いてあるわけですが、でもね、ここだけの話……」
 と、落合牧師はわざとらしく声をひそめて、敏の耳元にささやいた。
 「この子ができて、初めて、そう実感できました。ハハ……なにしろ、生臭坊主だもんで……」

 そういう飾らないところが、牧師の牧師らしいところではある。

 「じゃ、ボクの神の国は、まだまだ先の話ですね」
 「永久にムリかもしれませんねェ……」
 笑いながら言う牧師の胸を、トンと突いた。
 「子どもが生まれて少し増築したので、あなたをお泊めする部屋もあるんです。どうぞ、気がすむまでゆっくり滞在していってください」
 「じゃ、お言葉に甘えさせていただきます。そうだ、牧師。お寺には、宿坊っていうのがありますよね。修行を希望する人たちに宿を提供して、その代わり、お勤めに参加して仏教を体験してもらったりするっていうの。あれ、けっこう、若い人たちに受けてるそうですよ。どうです、教会でもやったら?」
 「秋吉クン、あなたはいつからそんな、商売っ気を身につけたんです?」
 「ハイ、これでも一応、世間の垢にまみれたもんですから……」
 「残念ですねェ。ご存じのように、教会には、座禅もなければ、読経も写経もないので、そういう売り方はムリなんですよ」
 「それは残念。じゃ、一宿一飯のお礼に、庭の草むしりでも、礼拝堂の床掃除でも、何でもしますからおっしゃってください」
 「おおッ、それはいい! じゃ、申し訳ないけど、6宿18飯ほどしていただきましょうか?」

 落合牧師はジョーダンのつもりで言ったのだが、結局、敏は、落合牧師の牧師館に3泊することになった。
 もちろん、落合牧師のたってのリクエストで、屋根に上っての十字架磨きもやることになった。

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テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

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